第6章240話:ナナバール視点4

「な、ナナバール様!!」


副官が信じられない様子で叫ぶ。


しばし呆然ぼうぜんとする。


ややあってから副官がため息まじりに言った。


「ああ、もう……我らが将軍さまは、無茶苦茶むちゃくちゃだ!」


「ふ、副隊長ふくたいちょう……」


部下の兵士たちが指示を求める。


副官は、苦笑して言った。


「イカれた上司を持って、我々も不幸だな」


その冗談めいた言葉に、部下たちも笑う。


副官は、言った。


上官じょうかんがみずから先陣せんじんってくださったのだ。我々が恐れをなして、退しりぞくわけにはいくまい。……飛び降りるぞ!」


兵士たちがうなずく。


まずけっした副官が、崖から飛び降りる。


次に部下が一人。


また一人。


また一人と、崖を飛び降りていく。







「……!」


無事に300メートルの崖を駆け下り、着地したナナバール。


崖を振り返る。


「お……来たか」


部下たちが、ブレコウォールを駆け下りてくる姿が目に入る。


「それでいい。俺についてくるなら、必ず、お前たちに勝利をもたらしてやる」


とナナバールは、ひとり、つぶやいた。


そうして数分後。


兵士たちがブレコウォールをわった。


着地に失敗し、重軽傷じゅうけいしょうを負ってしまった者が240名。


死んでしまった者が75名。


少なくない犠牲だ。


しかし、無理をした意味は必ずあると、ナナバールは微笑む。


「お前たちの勇気に敬意を表する! よくぞ俺についてきた!」


とナナバールは激励げきれいする。


さらに彼は告げた。


「これよりクランネルを攻撃する! 負傷した者は残れ! 動ける者だけで、進軍するぞ!」


「「「はっ!!」」」


と返事をする兵士たち。


ナナバールが動き出す。


それに兵士たちがついてくる。


ナナバールは、ジルフィンドの勝利を確信する。


この作戦が成功に終わり、凱旋がいせんのごとく本陣へ帰還する姿を夢想むそうする。


そんな甘い夢にひたりながら、最初の通路を右に曲がり―――――


通路のなかほどまで進んだところで。


「……!!」


ナナバールたちのゆくをさえぎるように。


ぞろぞろと現れる者たちがいた。


ソレは……


ルチル・ミアストーンと。


魔法銃撃隊だった。


「お待ちしておりましたわ」


とルチルが告げる。


「な……なぜ……」


ナナバールが呆然とした。


ルチルが答える。


「あなたたちがブレコウォールから攻めてくる気がしましたの」


「バカな……俺の作戦を、読んでいたとでもいうのか……!?」


「ええ。その通りですわ」


ルチルが肯定する。


作戦を読まれ、先回さきまわりされていたこと――――


その事実にナナバールは、自分の足元が、ガラガラとくずちていくような感覚を覚えた。

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