第6章239話:ナナバール視点3

<ナナバール視点>


アレックスを気絶させたナナバール。


ナナバールは興味をなくしたように、アレックスから視線を外した。


「これからどうするのだ、ナナバール?」


とヒズナルが尋ねた。


「そうだな……」


とナナバールは考え込む。


この戦争……


新たな作戦を実行しないと、おそらく敗北する……


ナナバールはそんな予感を覚えていた。


(どうすればいい?)


と自身に問いかける。


脳みそをフル回転させて、次なる作戦を考える。


考える。


考える。


……と。


そのとき、ナナバールはひらめいた。


(そうだ……あの崖……)


フロヴィッツ峡谷に入ったときに、見かけた巨大な崖。


ブレコウォールと呼ばれる大岩壁だいがんぺき


あそこから奇襲を仕掛ければ――――


たとえば、ブレコウォールを駆け下りて、敵陣の背後から攻撃を仕掛ければ……


敵に大きな混乱と被害を与えることができる。


(うん……いいな)


思いついた作戦が、極めて効果的であると気づく。


ナナバールは笑った。


「良い作戦を思いついた」


「ナナバール?」


「時間が惜しい。俺は出るぞ」


「お、おい」


ヒズナルは困惑した。


そんなヒズナルをよそに、ナナバールは天幕を出て、自前じまえの兵士を集合させる。


そしてブレコウォールへとおもむくのだった。







精鋭せいえいを含む1000名ほどの部隊ぶたいを連れて、ブレコウォールに辿り着いたナナバール。


ナナバールは静かに崖のはしから、崖下がけしたを見下ろす。


300メートルもある超高度ちょうこうどの崖。


たとえ身体強化魔法しんたいきょうかまほうがあったとしても、これだけの高さから駆け下りるのは危険だ。


死のリスクが大きい。


しかし……だからこそ、この作戦を実行する意味があるのだ。


ナナバールは、部下たちを振り返った。


「作戦を説明する――――今から、この崖を駆け下りる!」


その場に、動揺が走った。


ナナバールはさらに続ける。


「駆け下りたら、正面にある通路を右、左、右の順で曲がれ。そしたらクランネル軍の背後にでることができる。あとは、盛大に暴れるだけだ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


とナナバールの副官ふくかんが口を挟んだ。


「こ、ここから飛び降りるのですか?」


「飛び降りるのではない、駆け下りるのだ。ここは崖だが……途中に、いくつか足場あしばがあるだろう? それらを上手く使って、崖下まで降下こうかする」


「い、いや、さすがに無理でしょう!」


と副官が全力で抗議する。


ナナバールは冷たく尋ねる。


「ならば、このいくさに負けるか?」


「え……?」


「今のジルフィンド軍は極めて劣勢だ。このまま無理をせず、常識的な行動にとどまっていては、必ず負ける。お前たちは、勝つのをあきらめて敗北を受け入れるか?」


「……」


「俺は、そんな結末を拒否する! 必ず勝利をもぎ取る! そのためならば、崖だろうと谷だろうと、いくらでも駆けおりてみせよう!」


ナナバールは力強く告げる。


「怖いなら帰れ。ついてこれるやつだけ、俺についてこい。――――ゆくぞ!!」


そして。


ナナバールは先陣せんじんを切るように、崖から身をおどらせた。





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