第6章233話:一つの決戦

自分のまされた感覚を、もっと試して、確実なものにしたい。


そう思っていた矢先やさき――――


「見てたぜ?」


上から、声がした。


崖の上。


誰かが立っている。


チャラついた格好の男だ。


男は、崖を飛び降りてくる。


「ルチル・ミアストーンだな?」


着地して早々そうそう、男が尋ねてきた。


私は答える。


「ええ……。あなたは?」


「俺はガゼルだ。ジルフィンドの将軍だ」


ガゼル。


ゲームで、そんなきょうキャラがいたことを覚えている。


「テメエを殺しにきた。俺と戦え」


「……いいでしょう。受けて立ちますわ」


と答える。


そのときエドゥアルトが心配げに口を開く。


「ルチル様……その男は」


「わかってますわ」


空気でわかる。


この男は……強い。


ゴルベールやオリビアよりも。カラバーンよりも。


今まで会ってきた誰よりも。


「ですが、わたくしを信じて、見ていてください」


と、私はエドゥアルトに告げる。


剣をにぎって、ガゼルの前に立つ。


たぶん、ガゼルはジルフィンド軍で最強だろう。


私よりも数段すうだん、強い。


埋められぬ力量差りきりょうさがある。


たとえゲーム知識を駆使しても、決して届かない実力差じつりょくさ


だが。


私は。


負けることなどありえないと、わらっていた。


「いくぜ!」


ガゼルが、る。


信じられないほど綺麗な踏み込みと加速。


だが、私には、ガゼルの動きが見えていた。


まるでスローモーションのように。


「……!?」


私が踏み込む。


完璧なタイミングで、ガゼルに合わせる。


「なにッ!?」


私は剣を振るう。


このタイミングの攻撃をガゼルは回避できない。


慌ててガゼルは両手をクロスさせ、剣を防いだ。


「ぐっ!?」


ガゼルの腕に斬撃が走り、勢いよく血が噴き出す。


腕を切り落とすまではいかなかったが、かなりの深手ふかでだ。


ガゼルが距離を取って、ポーションをアイテムバッグから取り出す。


それを妨害するために、私は投げナイフを投擲とうてきしながら、斬り込む。


ガゼルが避けるが、避けた先に私は剣を放ち、ガゼルの肩を斬りつける。


「くっ……なんだテメエ!?」


とガゼルが驚愕する。


さらに私は二撃にげき三撃さんげき連撃れんげきを繰り出す。


ガゼルが防戦一方ぼうせんいっぽうとなる。


(さっきよりも、調子が良い)


と私は、自分の状態を客観的に理解する。


ゴルベールやオリビアと戦っていたときよりも、さらに感覚が研ぎ澄まされている。


「この強さ……マジかよ」


とガゼルは、信じられない様子で私を見つめていた。

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