第6章226話:アレックス視点5

アレックスは言った。


「ナメた口ばかりをいて……あとでづらをかくことになるぞ?」


「へえ、そりゃ楽しみだな?」


ガゼルが笑う。


アレックスが剣をさやから抜いた。


しばし、沈黙が流れる。


静寂せいじゃく


風が吹きぬけた直後、アレックスが宣言した。


「いくぞ!!」


アレックスが剣を持って、ガゼルへと斬りかかった。


「ハァッ!!」


アレックスは剣を横にはらう。


ガゼルはなんなく避ける。


えいッ!!」


続けざまに二撃、三撃と、攻撃を繰り出していくアレックス。


一方のガゼルは、軽やかなステップでアレックスの斬撃をかわし続ける。


アレックスは言い放つ。


「どうしたどうした!? ただ避けているだけでは勝てないぞ!」


アレックスは笑みを浮かべながら剣を振るう。


「それとも、威勢がいいのは口だけか!?」


「はははっ! 実力差じつりょくさも理解できないボンボンが」


とガゼルが挑発する。


アレックスが眉をひそめる。


「なんだと!」


アレックスの斬撃。


それを軽く回避したガゼルが、右手でアレックスの胸に掌底しょうていを当てる。


「うぐっ!?」


アレックスがたたらを踏む。


掌底を食らったことで、わずかな時間であったが、呼吸を止められた。


アレックスがき込む。


「こほっ、ごほっ……ぐっ」


「おいおいどうした? ちょっと手のひらで押しただけだぞ? もうヘバったのか?」


「ば、バカを言うな! この程度、なんでもない!」


アレックスがふたたび斬りかかった。


「……」


ガゼルは楽勝で避け続ける。


【大剣術家】の適性職であるアレックスの剣技。


その実力は―――悪くない。


平均的な兵士よりはマシな剣術であるといえるだろう。


しかし、それだけだ。


ひしめく猛者もさの中でも、最強格さいきょうかくであるガゼルを相手には、通用しない。


アレックスは告げる。


「なるほど! 避けるのは上手いようだな!」


さらにアレックスは宣言する。


「ならば私も本気を出させてもらおう!」


「本気?」


「ああ、わが必殺のスキルを使う。いくぞ――――【剛速斬撃ごうそくざんげき】!!」


アレックスのスキル。


剛速斬撃。


スピードと威力を飛躍的に高める強撃スキル。


アレックスの身体と剣にオーラのように光があふれる。


その状態で、アレックスが斬りかかった。


「ハァアアアアッ!!」


全身全霊ぜんしんぜんれい、アレックスの本気。


気炎きえんを乗せた斬撃だったが……しかし。


「!!?」


ガゼルは、剛速斬撃の剣を、なんと素手で止めた。


「ば、バカな!? 素手で、受け止めた……だと!?」


アレックスが驚愕する。


ガゼルは、アレックスのスキルにはまったく興味をそそられなかったが……


剣のほうには興味をそそられた。


「ほう。きょうミスリルで鍛造たんぞうした剣か? なかなか上等な武器じゃねーの」


アレックスの剣は、王族に与えられた上質な剣だった。


だからガゼルは、アレックスの剣に注目した。


そのうえで、ガゼルは告げる。


「――――ま、使ってる人間がクソだから、宝のぐされだけどな!」


「なんだと!」


アレックスが憤慨ふんがいする。

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