第6章222話:アレックス視点

<アレックス・ネキア視点>


ネキアは、部下を率いて崖のうえを歩いていた。


―――ネキア。


身長165センチ程度の女性。


栗色のセミロング。


緑色の瞳。


階級は中隊長。


ネキア隊に与えられた役目は、崖をつたって歩き、下りた先にいるジルフィンド軍を強襲――――これを撃破すること。


加えて。


アレックスのサポートである。


「殿下、大丈夫でしょうか?」


「何がだ?」


「いえ……さきほどから難しい顔をしておられますから、気分が優れないのではないかと思いまして」


「ふン。当然だ。こんな末端の仕事を任されて、気分が良いわけがないだろう!」


とアレックスは憤慨ふんがいした。


アレックスは、このいくさで盛大に活躍するつもりだった。


ところが、任された役目は、極めて重要度の低い作戦。


成功しても失敗しても、大局に影響しないようなものだ。


(ルチルのせいだ)


とアレックスは内心で、怒り狂った。


(私を活躍させず、あとで馬鹿にするために、このような配置にしたのだ……そうに違いない!)


これはもちろん、アレックスの被害妄想である。


しかしルチルがアレックスを重要な任務から遠ざけたのは事実である。


アレックスにそういった任務を任せても、ロクにこなせないばかりか、大失敗をやらかすと思ったからだ。


「大丈夫ですよ、殿下」


とネキア中隊長は言った。


「実績は一歩一歩、お積みになっていけばいいのです。そうすれば多くの人が、いつか殿下のご努力を認めることでしょう」


ネキアは、人格者であった。


彼女は、アレックスに何かしらの実績を積ませてあげたいと考えていた。


別に王族に取り入りたいわけではなく、本心から、殿下のことを心配していたからだ。


しかしアレックスは、そんなネキアの良心を疑った。


(ふン……ルチルの犬が! 私を監視しているだけのくせに、しらじらしいことをほざくな!)


ネキアは別に、アレックスの監視役というわけではない。


しかしアレックスはネキアを、自分のお目付めつやくのように感じていた。








さて、崖を進むとのぼざかになる。


狭い坂道だ。


すぐ視界の右側は、崖である。


少しでも足をはずしたら、数十すうじゅうメートルしたの地面へまっさかさまだろう。


「殿下。崖側がけがわは危ないです。私がそちらを歩きます」


と告げて、ネキア中隊長がアレックスと場所を代わった。


ネキアが崖側がけがわを、アレックスが通路側つうろがわを歩くことになる。


歩きながらアレックスは思った。


(このままでは、私は何の活躍もできないまま終わってしまう……)


仮にこの任務をこなしても、大した実績にはならない。


大将首たいしょうくびをあげるとまではいかなくても、敵将てきしょうの一人でも討ち取らねば、気がすまない。


(だが、監視役のネキアが邪魔だ。こいつがいると、好きに行動できない)


アレックスはネキアをにらむ。


そのとき。


アレックスは気づいた。


ネキアは崖側がけがわを歩いている。


崖のそばを、だ。


(そうだ……こいつを排除する、簡単な方法があるではないか)


アレックスはあくどい笑みを浮かべる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る