第6章220話:ナナバールの指示

<ナナバール視点・続き>


伝令兵から詳細を聞く限り……


爆弾は、ことによると魔法銃よりも凶悪かもしれない新型武器だ。


ナナバールは叫んだ。


「すぐさま全軍を突撃させろ!」


その場にいた全員が、目を見開く。


ヒズナル将軍が尋ねる。


「ぜ、全軍突撃ぜんぐんとつげきをさせるのか? いったん後退こうたいさせたほうがいいのではないか?」


「馬鹿が! 後ろに下がっても、奇襲のまとになるだけだろうが!」


ナナバールが告げる。


「全軍を突撃させて、混戦こんせんに持ち込んだほうがいいんだよ! そうすれば、銃も爆弾も使えなくなる!」


ナナバールの見立みたては正しかった。


敵味方てきみかたが入り乱れている戦場では、魔法銃は撃てなくなる。


なぜなら、そんな場所で銃を発砲したら、うっかり味方に当たってしまう可能性があるからだ。


これは爆弾も同じだ。


味方が戦っている場所で、むやみに爆弾を投げることはできない。


ヒズナルは納得する。


「なるほど……後退するより、むしろ突っ込んだほうがいいのか」


「ああ、だから全軍突撃だ。そしてジルフィンド軍が、銃や爆弾で削られすぎる前に、一気にカタをつける。短期決戦だ!」


ナナバールがそう宣言する。


しかしナナバールは気づいていた。


全軍突撃をしたとしても、魔法銃撃隊の脅威を排除できないということに。


(広い場所なら混戦状態に持ち込めるが、通路では無理だ)


峡谷には広まった場所と、狭まった通路がある。


広い空間で戦えば混戦となるだろう。


しかし通路などの細道ほそみちで戦う場合は、最前列にいる兵士たちがぶつかり合うだけで、混戦とはなりにくい。


そして混戦状態にできなければ、いつでも魔法銃撃隊に奇襲される危険がある。


「魔法銃撃隊を潰すしかない」


とナナバールはつぶやいた。


各将軍かくしょうぐんに通達しろ。現場の指揮を副官に任せろと。そして将軍はみな、魔法銃撃隊を討伐する任務につけ」


「なっ!?」


ナナバールの命令に、ヒズナル将軍が驚愕する。


「しょ、将軍に戦線せんせんを離れさせるつもりか!?」


「ああ。個人の武勇が最も優れているのは将軍だ。ならば将軍たちに、魔法銃撃隊を撃破させるのが一番効率的だ」


ジルフィンド第一軍・第二軍の将軍はすでに死去している。


しかし第三軍~第九軍までの将軍と、ガゼルは生き残っている。


この8名を魔法銃撃隊の討伐へと向かわせる……というのがナナバールの指示である。


ナナバールは説明する。


「この戦い……魔法銃撃隊を潰せなければ、ジルフィンドは負ける。今回のいくさだけではない、次も、その次の戦いも、全て敗北する。だから無理をしてでも、ここで魔法銃撃隊を叩くしかないんだよ」


「むう……」


ヒズナル将軍は、うなりつつも、納得した。


確かに、魔法銃撃隊は極めて脅威だ。


ここで排除するしかない、というナナバールのげんは、正しい。


だからヒズナルはナナバールに反論しなかった。


ナナバールは告げた。


「伝令兵、今の命令は理解したな? さあ、将軍たちに通達してこい」


「は、はい!」


返事をした伝令兵たちが、さっそく命令を伝えに、天幕テントを出て行くのだった。





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