第6章213話:ジルフィンド視点3

ナナバールの剣が走る。


知性だけでなく、においても卓抜たくばつの才能を見せるナナバールの剣撃けんげきだったが……


ガゼルはそれを、なんと素手で受け止めていた。


「あんたじゃオレを殺せねーよ、ナナバールちゃん?」


「ちっ」


ナナバールが舌打ちをして、剣を収める。


周囲にいた者たちは、戦慄せんりつしていた。


自分がガゼルだったら、いまの攻撃を止められただろうか?


……無理だ。


それほどまでにガゼルの【見切り】のセンスは極まっていた。


ガゼルは告げる。


「いやしかし、手痛ていたい敗北だったみたいじゃねえの。たかだか1万の兵力に、4万をぶつけて惨敗ざんぱいするたぁ……国に帰ったら懲罰ちょうばつもんだぜ」


ヒズナル将軍が答えた。


「わかっている。だからナナバールに、次の作戦を考えてもらっていたところだ」


「で? 良い作戦は思いついたのかよ?」


「ああ。これ以上ないほどの作戦だ。さすがナナバールといったところだな!」


とヒズナル将軍が笑った。


だがガゼルが目を細めて、疑問を口にする。


「ふーん? でもよ、本当にそれが最善策さいぜんさくなのか?」


「なんだと?」


とヒズナル将軍が眉をひそめた。


ガゼルは告げる。


「聞くところによると、初戦しょせんでジルフィンド第一軍だいいちぐん第二軍だいにぐんが全滅。カラバーンのオッサンも死んだって話じゃねえか? そんなんで、本当に最高の作戦が組み立てられるのかよ」


ヒズナルが苛立いらだたしげに答える。


「それは……難しいだろう。しかし言っても仕方あるまい。生き残った者たちで、やれることをやるしかないのだから」


「そうだな。だからこそ提案させてもらうが……オレを使えよ」


「なんだと?」


「オレならば、カラバーンの代わりぐらいなら楽勝でつとまるぜ?」


とガゼルは自信げに言った。


しかしナナバールが鋭い口調で言い返す。


「悪いが、お前は今回の作戦に組み込んでいない」


「なんでだよ? 切羽詰せっぱつまってんだろ?」


「お前は、いわばジョーカーだ。戦場に出したら何をしでかすかわからん」


以前にあった戦争で、ガゼルはさんざんに暴れまわった。


与えられた作戦を無視して行動し、挙句あげくの果てには、敵だけでなく味方も襲撃するような始末だった。


そんな狂犬きょうけんみたいなバカを、大事な作戦にとうじるわけにはいかないというのがナナバールの考えだ。


だが、ガゼルは言う。


「いいのか? オレを使わなければ、この戦争、負けるぜ?」


「……なんだと」


「オレというジョーカーを切るなら、ココだ。ほんとはわかってんだろ、ナナバールちゃんよ?」


ナナバールは目を細める。


たしかにナナバールは、カラバーン将軍さえ生きていれば、もっと上等な作戦を実行できた。


しかしカラバーン将軍はもういない。


だからあきらめて、次善策じぜんさくを提示した。


けれど。


(たしかにガゼルなら……カラバーン将軍の代わりが務まる)


自分が思い浮かべる最善策を打つことができる。


ナナバールは思考する。


もしガゼルを配置するなら……


ガゼルがめちゃくちゃに暴れても、混乱しにくい配置があるとすれば……


(……ココか)


地図の一点を凝視するナナバール。


「いいだろう。ガゼル」


「お?」


「お前を今回の戦場で使ってやる」


「おお? マジか?」


「ああ」


その言葉にガゼルが笑う。


「はははははは! やっとオレの出番が来たか!」


ナナバールが告げる。


「いいか、ガゼル。必ず戦果せんかを上げろ。次に負けたらもう後がないからな」


「ひゃははははは!! わかってらァ!」


哄笑こうしょうしてから、ガゼルは突然、テーブルのうえにドンと飛び乗った。


「な……」


行儀ぎょうぎが悪いぞ……」


と周囲の者たちは口々に言うが、


それをかいさず、ガゼルは叫ぶ。


「おいジルフィンド軍を指揮するカスども!」


ガゼルは言い放った。


「お前らは初戦しょせんらかすような、底抜そこぬけの役立やくたたずだが……安心しろ? この軍にはオレ様がいるからな!」


さらに続ける。


「このオレがクランネル軍をぶちのめす! テメエらは、オレを引き立たせる脇役わきやくとして、せいぜい端っこのほうで活躍しとけ。いいな?」


ガゼルはテーブルを飛び降りる。


その場にいた全員が、何も言い返さず、沈黙した。


ガゼルはとんでもなく無礼で、イキりまくっているクソガキみたいな男だが……


強い。


実力だけならジルフィンド軍でも最強を誇る。


素行そこうが悪すぎてリーダーには向かないが、単騎たんきの実力ならば、この男の右に出る者はいないだろう。


だから誰も逆らわない。


ナナバールは告げる。


「それではガゼルを組み込んだ作戦を説明する―――――」


ナナバールは自分の思い描く作戦を、語るのだった。



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