第6章212話:ジルフィンド視点2

<ジルフィンド視点・続き>


「もしそれが本当なら、錬金術の価値は一変するな。錬金術師の育成にも力を入れる必要があるかもしれない」


とヒズナル将軍もうなる。


ナナバールは言った。


「錬金術師の育成は、戦争に勝ってからだ。そんなことより、今は眼前の戦争に勝たねばならない」


すると大隊長の一人が尋ねた。


「しかし、そのような強力な武器を多数所持している相手に、勝算はあるのでしょうか?」


ナナバールはフンと鼻を鳴らして、答える。


「勝算はある。――――まず、このフロヴィッツ峡谷きょうこくは崖に囲まれている。敵が魔法銃を運用するには、不利な地形だ」


あちこちに崖がそそり立つフロヴィッツ峡谷。


さきほど聞いた、魔法銃の性質を考えると、この峡谷で効果的に利用するのは難しいだろう。


ナナバールが続けて言った。


「だから魔法銃は、ある程度封殺できる。あとは俺が考えた作戦を用いれば、完封も可能だろう」


「そんな作戦があるのか!?」


とヒズナル将軍が身を乗り出した。


ナナバールはうなずいてから、テーブルの地図を指差した。


「まず、ジルフィンド第五軍だいごぐんをここに配置する。次に、第六軍だいろくぐんを―――――」


ナナバール将軍が、地図のうえに石を置いて示唆していく。


「そして、ここをこう。この角度ならば、攻めるに易く、相手からも撃たれにくい。だから―――――」


ナナバールが語る作戦。


それは、他の指揮官たちの度肝どぎもを抜くようなものであった。


テーブルを囲む全員が、思わず鳥肌を立ててしまうような、鮮やかな作戦。


ナナバールが語り終える。


「以上が、俺の考える作戦だ」


「素晴らしい!」


とすかさずヒズナル将軍は叫んだ。


他の者たちも口々にナナバールを褒め称える。


ああ……


やはり、彼はナナバール!


戦の天才だと。


だが。


誰もがナナバールを褒め称える中、ナナバール本人の内心は異なっていた。


(くそ……カラバーン将軍が生きていれば、もっと良い作戦が実行できたのに!)


ナナバールが憤慨ふんがいする。


そしてカラバーン将軍をったルチルへ怒りを向ける。


(ルチルめ、ルチルめ、ルチルめ……! 俺の天才的なアイディアを狂わせるゴミ女が! 絶対、絶対に殺してやるぞ!!!)


怒りのままに、ナナバールがドンッとテーブルを叩く。


ナナバールを褒め称えていた指揮官たちが、ビクッと肩を震わせた。


そのときだった。


「うーっす。オレ様が戻ったぞー!」


と、チャラついた男が天幕テントの中に入ってきた。


―――ガゼル。


身長165センチ。


ウルフカットの黒髪。


赤い瞳。


まるでオオカミのような雰囲気をかもす男である。


「作戦会議への参加を許可した覚えはないぞ、ガゼル」


とナナバールが睨みながら言った。


ガゼルが立ち止まる。


「固いこと言うなよ、ナナバールちゃん」


「―――その呼び方をやめろ! 気色悪い!」


ナナバールが怒鳴った。


ガゼルが肩をすくめて、告げた。


「おいおい、カリカリしちゃってどうしたんだよ? 初戦しょせんでクランネル軍に負けたのがそんなに悔しかったのかよ、あン?」


「――――――ッ!!」


ガゼルの言葉が、ナナバールの逆鱗げきりんに触れる。


ナナバールが目にも留まらぬ速さで剣を抜き放ち、ガゼルを斬りつけようとした。

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