第6章211話:ジルフィンド視点

<ヒズナル・ナナバール視点>


同じころ。


昼。


晴れ。


フロヴィッツ峡谷きょうこくの奥地にて。


ジルフィンド軍の陣営じんえいがあった。


周囲を崖に囲まれた場所。


地面も、むきだしの大地である。


土は乾いており、ところどころにひび割れが存在する。


そこにいくつもの天幕テントが設営されていた。


兵士たちが食事をしたり、武具ぶぐ手入ていれをしている。








中央奥ちゅうおうおくにある一番大きな天幕は、ヒズナルが使う天幕であり、作戦会議室さくせんかいぎしつでもあった。


現在ジルフィンド軍の指揮官しきかんたちが集まり、テーブルを囲んでいる。


テーブルには椅子はなく、全員が起立きりつした状態での会議だ。


「兵士たちからの報告によると、」


ジルフィンドの大隊長が告げた。


「フロヴィッツ草原において、クランネル軍は、やはり新型兵器しんがたへいきを投入したようです」


「ナナバール将軍が指摘した通りですな」


と別の隊長が合いの手を打った。


ナナバールが問いかける。


「その新型兵器の名は?」


「魔法銃……と、クランネル軍は呼称しているようです。ルチル・ミアストーンが錬金術によって開発したとか」


「なるほど」


とナナバールは納得した。


(魔法銃なる新型武器……ルチルが初戦しょせん籠城戦ろうじょうせんではなく野戦やせんを選択した理由もソレだな)


1万vs4万という圧倒的な兵力差が存在した。


普通なら籠城戦を選択するであろう大差。


なのに、クランネル軍が籠城戦を選ばなかった理由……


野戦を選択した理由は、魔法銃を効果的に運用するためだ。


砦の城壁から銃をぶっぱなすよりも、だだっぴろい草原で乱射したほうが、殲滅力せんめつりょくが高くなる。


そういう武器なのだろうと、ナナバールは推定する。


(つまり、ルチルが開発した武器のせいで、俺が負けたんだ!)


ナナバールは憤慨ふんがいし、


「ルチルめ、ルチルめ、ルチルめ……! よくもよくもよくもよくも!!」


とぶつぶつうらごとを発する。


周囲にいた指揮官たちは怯えたようにナナバールを見つめた。


「問題はその、魔法銃なる新型兵器への対策だ!」


とナナバールは叫ぶように言った。


さらに彼は続ける。


「まず、魔法銃の特性を、わかっている範囲でいいから教えろ」


「は、はいっ!」


と大隊長が返事をしてから、魔法銃について語っていく。


射程距離。


威力。


連射性能れんしゃせいのうなどなど。


語るにつれて、その場にいた者たちが顔色かおいろを変えていく。


「なんという武器だ」


「推定700メートル近い飛距離ひきょりがあるとは……とんでもない武器だな」


「弓や魔法よりも凶悪だ。量産が可能ならば、戦争の常識を変えるぞ」


「ルチル・ミアストーンはそのような武器を、みずから開発したというのか? 錬金術で?」


などなど、指揮官たちが口々につぶやく。


クランネル軍が投入してきた魔法銃……


その攻撃力や制圧力が、とてつもないものであることを、彼らは理解した。




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