第6章209話:会議開始

ベアール将軍は、大隊長にふたたび命じた。


「おい。アレックス君を追いかけて、清掃作業を命じておけ」


「え? 本当にやらせるんですか? 一応、王族ですよ?」


「そういうのも含めて陛下は、アレックス君に社会経験をさせろとおっしゃっておられるのだろう。アレックス君は、どうやら甘やかされて育ったようだからな」


「……そうですか。承知しました」


と大隊長は納得して、アレックスを追いかけていった。


やれやれ。


ようやくアレックスが退場したか。


茶番のような時間が終わって、私はひと息つく。


「さて……仕切しきなおしだ」


とベアール将軍が告げた。


アレックスのせいで会議の初動が邪魔されてしまったが……


いよいよちゃんとした会議の開始である。


「次の戦場となる、フロヴィッツ峡谷きょうこくのおいての作戦を考える。まずは情報の確認だ。……大隊長?」


ベアール将軍の言葉を継いで、大隊長が答えた。


「はい。まず初戦で大敗たいはいきっしたジルフィンドの兵力は、23000名にまで減りました。しかし、我が軍は8000名しか残っていないので、依然として倍以上ばいいじょうの差があります」


クランネル兵が8000名。


ジルフィンド兵が23000名。


8000vs23000。


1万vs4万よりはマシではあるが、まだ3倍近い兵数差へいすうさがある。


圧倒的不利な状況には変わりない。


「また、草原での戦いにおいて、高い戦闘力を発揮したルチル様の魔法銃撃隊ですが……フロヴィッツ峡谷では、地形的に運用が難しいものと思われます」


「それは何故ですか?」


と問いかけたのはエドゥアルトである。


私が答える。


「フロヴィッツ峡谷は、一言でいえば、がけだらけの地形なのですわ」


フロヴィッツ峡谷は、無数の崖がそそり立つ地形。


その崖と崖のあいだに、たくさんの通路が走っている。


まるで迷路のようになっている岩壁地帯がんぺきちたいであり、地図なしで通過しようとすると、高確率で迷うほどだ。


フランカが納得する。


「なるほど。つまり次の戦いでは、崖と崖のあいだの、細い道で戦うことになるわけですね?」


「その通りですわ。そして、そういう場所では、魔法銃は使いづらいのです」


遮蔽物しゃへいぶつのない広々ひろびろとした草原で銃弾をぶっ放したほうが、飛距離が伸びるし、拡散力が高くなる。


しかしフロヴィッツ峡谷のような崖だらけの地帯では、岩壁に銃弾が阻まれてしまい、魔法銃のポテンシャルが活かしきれない。


特に遠距離射撃はかなり難しいと思ったほうがいいだろう。


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