第6章207話:手紙

そのときアレックスは私を見て、聞いてきた。


「どうだ、ルチル?」


「……どう、とは?」


「私の作戦は素晴らしいだろう? 少しは、私の偉大さが理解できたか?」


「……」


私は呆れたように沈黙した。


何も語るまい。


そのとき、私の隣に座っていたベアール将軍が耳打ちしてきた。


(ルチル様? 殿下のことですが)


(みなまで言わなくても結構ですわ。ベアール将軍の好きにしていただいて構いません)


(好きに、とは?)


(アレックスを追い出そうが、殴り倒そうが、私はベアール将軍の味方をする……ということですわ。はっきり申し上げて、作戦会議にアレックスは邪魔ですから)


(……わかりました)


小声での密談が終了する。


ベアール将軍が、口を開いた。


「殿下、正直に申し上げますが―――――」


「ところで!」


とアレックスが、ベアール将軍の言葉をさえぎる。


アレックスが服のポケットからなにやら紙を取り出した。


高貴そうな紙である。


アレックスは言った。


「ベアール将軍あてに、母上からこの手紙を預かっている。……ベアールというのはどいつだ?」


アレックスの母とは……女王陛下である。


ベアール将軍が答えた。


「私ですが」


「お前か」


アレックスはベアール将軍に手紙を手渡す。


「確かに渡したぞ」


「いま拝読しても?」


「好きにしろ」


とアレックスは答えた。


ベアール将軍は、手紙を受け取り、中身を読んだ。


それから静かにつぶやいた。


「……なるほどな」


ベアール将軍は手紙をテーブルの上に置いた。


そしてベアール将軍は、ピシャリと告げた。


「アレックス殿下。今すぐ、会議室を出て行ってもらおうか」


「!?」


全員がギョッとしたようにベアール将軍を見つめた。


出て行け……と、王子であるアレックスに告げたのだ。


王族に向かっての物言いとしては、あまりにも直言ちょくげんすぎる。


「なんだと、貴様? 誰に向かっての発言かわかっているのか?」


とアレックスは不愉快そうに問い返した。


ベアール将軍は答える。


「もちろんだとも」


ベアール将軍は、テーブルの上に置いた手紙を、トントンと指で示唆しさする。


「この手紙には『アレックスは未熟者みじゅくものだから、王族ではなく、ただの兵卒として扱え』と、書いてある」


「なっ……母上が、そのようなことを!!?」


「ああ。『アレックスの性根しょうねを叩き直すために、存分に厳しくしてくれて構わない』……とも書いてあるな」


「!?」


ベアール将軍の言葉に、アレックスが冷や汗を浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る