第6章205話:宴

夜。


砦にて。


うたげが開かれていた。


初戦しょせんを制したことを祝福する宴だ。


砦の庭や、城壁の周りに、屋台やたい篝火かがりびが設置される。


たくさんの木製テーブルと椅子が置かれ……


火事にならないように気をつけつつ、焚き火やキャンプファイヤーなどがおこされている。


兵士たちは料理や酒を手に、勝利を祝う。


活気と歓喜に満ちていた。


みんな笑顔で、笑っている。


私や、エドゥアルト、フランカは、端っこのほうのテーブルで静かに飲んでいた。


「みんな浮かれてますわね」


と私は言った。


エドゥアルトは応じる。


「まあ、当然かと。明らかに敵のほうが多かったのに、終わってみれば、こちらの圧勝でしたからね」


「ルチル様のご活躍のおかげですね!」


とフランカがにこやかに笑った。


「ルチル隊が思ったより上手く機能してくれたおかげですわ」


ルチル隊の機動力。


それから魔法銃の制圧力。


この二つが、予想以上の効果を発揮してくれたおかげで、圧勝できた。


フランカが尋ねてくる。


「でも、まだ戦争は続くんですよね?」


「まあそうですわね」


初戦を制しただけで、依然として、敵兵は2万以上の数を残している。


対して、こちらは8000。


数のうえでは、まだまだクランネル軍のほうが不利だ。


(でも……次はフロヴィッツ峡谷きょうこくでの戦いだからね)


フロヴィッツ峡谷の戦いは、いよいよ、ナナバールが本領を発揮する場所。


源義経みなもとのよしつねをモデルにした、奇襲作戦を決行してくる。


でも、奇襲が来ることを、私は既にゲーム知識として知っている。


恐れる必要はないだろう。









宴は続く。


その途中、ベアール将軍がやってきた。


「お疲れ様です。ルチル様」


「ええ、ベアール将軍。……何か御用ですか?」


「はい。アレックス殿下のことですが、」


とベアール将軍は、言いにくそうにしながら告げた。


「殿下は、あなたの婚約者であるとうかがっております」


「ああ」


私はベアール将軍の内心を察した。


「別に、婚約者だからといって特別扱いする必要はありませんし、私に気を遣わなくても結構ですわよ」


「そう、ですか?」


「ええ。アレックスは軍人としては半人前でしょうし、何をやらかすかわかりませんわ。本当に駄目なことをしでかしそうなときは、厳しい対応をしていただいて構いません。その場合、私はベアール将軍の肩を持ちましょう」


「そう言っていただけると助かります。ただまあ、相手は王族ですから、敬意を欠いたことはなかなかできないでしょうが」


「まあ、そうですわね」


相槌あいづちを打つ。


話題を変えるようにベアール将軍が告げた。


「ところで、美味うまい酒をお持ちしたのです。是非、召し上がってください」


「ああ。昼間、言っていたお酒ですわね?」


「ええ」


私はベアール将軍が用意してくれた美酒びしゅを飲んだ。


甘く、フルーティな酸味もあって、とても美味しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る