第6章203話:来訪

ジルフィンド軍の追撃戦ついげきせんが終わる。


フロヴィッツ草原からジルフィンド軍がいなくなり……


草原にはクランネル軍の歓声があちこちで上がっていた。


1万vs4万の圧倒的大差あっとうてきたいさくつがえ大勝利だいしょうり


私たちルチル隊も、凱旋がいせんするかのごとく、悠然ゆうぜんと草原を歩く。


やがてベアール将軍のいるところへと辿り着いた。


ベアール将軍は言ってきた。


「お疲れ様でした、ルチル様。このたびのいくさは、お見事なご采配さいはいでした」


「ベアール将軍こそ。全軍の指揮を任されてくれて、ありがとうございました」


と私は返す。


ベアール将軍は首を横に振ってから、告げた。


「いいえ。ルチル様のご活躍に比べれば、私など、大したものではございません。本日の勝利は全て、あなたのおかげです。私も大変勉強になりました」


ベアール将軍の目には、私に対する敬意が宿っているようだった。


はじめて出会ったときは、こころよく思われていなかったようだが……


ベアール将軍の中で、私への評価が変わったようである。


ベアール将軍が言った。


「実は戦争前、部下に勝利の美酒びしゅを持ってこさせておきましたので……ルチル隊の皆様とともに、あとで召し上がってください」


「ええ。今夜のお酒は、美味しくなりそうですわね」


私は微笑んで答えた。


と。


そのときだった。


「る、ルチル様!!」


歓声とは違う、焦った様子の声で、フロヴィッツとりでのほうから兵士が近づいてきた。


彼は……たしか。


砦の指揮官だ。


今回の戦いでは、ほとんどの兵士はフロヴィッツ草原で戦っていたが、砦を完全に留守るすしていたわけではない。


いくらかの兵士を砦の防衛のために残してあった。


その砦兵とりでへいをまとめているのが、この指揮官――――砦長とりでちょうである。


私は尋ねた。


「なんですの?」


「それが―――――」


砦長は慌ただしい様子で報告してくる。


「アレックス殿下が、とりでに参られております」


「……は?」


私はぽかんとした。




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