第6章194話:他者視点

<三人称視点・続き>


誰も理解できない現象が起こっていた。


ジルフィンド第二軍だいにぐんが、クランネル軍にいつの間にか包囲されているという現象。


それはジルフィンド第二軍だいにぐんの兵士たちに多大な混乱を招いている。


同時に。


「なんか、ヤバくね……?」


焦りと。


不安と。


恐怖を、引き起こしていた。


戦況が把握できない。


今、何がどうなっているのか?


「俺たちは、いったい誰と戦っているんだ……?」


と、部隊長ぶたいちょうの一人がつぶやいた。


目の前にいる敵は誰だ?


さっきまで正面で戦っていた敵兵か?


それとも伏兵か?


わからない。


わからないからこそ、混乱と恐怖が蔓延まんえんしていく。


「とにかく包囲されているんだ! 包囲網ほういもうを突き破らないと、袋のネズミだぞ!」


部隊長が叫んだ。


すると、彼は包囲の薄い部分を発見する。


「ここから包囲を抜ける! ついてこい!」


と部下の兵士たちに指示を飛ばす部隊長。


部隊長は馬を蹴り、先陣せんじんを切って走る。


だが。


「!!?」


ズダ!


ズダダダダ!!


と、はるか彼方かなたからけたたましい轟音ごうおんが鳴り響いた。


次の瞬間。


「こふっ……!?」


部隊長の胸に、穴があいていた。


彼は落馬らくばして大地に倒れ伏せる。


「ぶ、部隊長!? ―――――がはッ!?」


部下の兵士たちも、飛んでくる何かを食らって、馬から転落した。


ズダ!


ズダダ!


ズダダダダダダ!!


激しい轟音が雷鳴らいめいのごとく鳴り続ける。


その轟音が鳴るたびに、目に見えないほど速い何かが飛んできて、兵士たちの命を刈り取っていく。


「あ、ああッ……」


兵士たちは、あっという間に恐慌状態きょうこうじょうたいになった。


けたたましく響く轟音。


まるで死を運んでくる旋律だ。


それがルチル隊によって導入された、魔法銃という新型武器しんがたぶきであるとは、ジルフィンド兵は想像できない。


何がなんだかわからないまま、高速の飛来物ひらいぶつによって命を狩られていく。


兵士達は耐え切れなくなり、叫ぶ。


「あああああああッ!!」


ある者は走って逃げ始めた。


ある者はその場に、頭を抱えて伏せた。


正気を保っていられず、あちこちで絶叫が上がる。


脱走を決意する兵士たちが続出した。


とある兵士は――――


武器を捨てて逃走をはじめながら、つぶやいた。


「俺には、愛する人がいるんだ……」


彼は青年だった。


結婚を約束した相手がいた。


「生きて、帰るんだ……俺は……!」


次の瞬間。


青年の脳天のうてんを、死の弾丸が貫通し――――


彼の命を、あっけなく奪い去った。




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