第6章183話:挨拶

「ご挨拶どうも。わたくしはクランネル軍を指揮するルチル・ミアストーンですわ。こちらはベアール将軍」


と私は答えた。


ヒズナルは納得したようにつぶやいた。


「なるほど。ミアストーン司令官の娘御むすめごか」


ミアストーン司令官とは、私の父ルーガのことである。


ヒズナルは、クランネル軍を眺めながら言った。


「それにしても、ルチル殿はなかなか面白い御仁ごじんだ。いや、滑稽こっけいというべきかもしれんが」


「……どういうことですの?」


と私は返す。


するとヒズナルは小馬鹿にしたように笑い、言った。


「なに、ルチル殿は、とんだ戦知いくさしらずだと思ってな! 私はてっきり、あなたがたが籠城戦ろうじょうせんを仕掛けてくるかと思っていたのだが、まさか野戦やせんとは……いやはや滑稽で仕方ない。ナナバールもそう思わんかね?」


話を振られたナナバールが、嘲笑あざわらったように答える。


「ええ、おっしゃる通りですね。普通この状況で野戦は選択しない。ルチル殿は、軍家の生まれのようですが、どうやら兵法の基礎も知らないようだ。馬鹿な人間が上官だと、部下が可哀想です」


するとヒズナルが笑う。


「はははは! しかしルチル殿のような、愚かな姫将軍ひめしょうぐんがトップのおかげで、我々は勝ちを拾うことができそうだ。本当に、私は運がいい」


とヒズナルもナナバールも、完全に見下した様子である。


二人のニヤついた笑みに、ベアール将軍は顔をしかめた。


私は言う。


「あまり我々をナメていると、痛い目を見ますわよ?」


するとヒズナルは笑いをこらえながら、以下のように返した。


「くくく、それは楽しみだな? では、戦前いくさまえのご挨拶はこれぐらいにして……次は戦場でお会いしよう」


そう告げて、ヒズナルたちは立ち去っていく。


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