第6章182話:草原

3日後。


朝。


晴れ。


――――フロヴィッツ草原にて。


クランネル王国軍。


ジルフィンド公国軍。


両軍りょうぐんの兵士たちが、草原のうえに整列していた。


距離を開けて、にらみあっている。


歩兵。


騎兵。


弓兵。


魔法兵まほうへい


攻城兵器群こうじょうへいきぐんなどが、ずらりと並ぶ。


楽隊がくたいによるラッパ、陣太鼓じんだいこを叩く音、銅鑼どらをバンバンと打ち鳴らす音。


私は、そんな兵士たちの前に立って、自軍じぐんの様子を眺めていた。


(やはり、士気は高くないね)


現在のクランネル王国軍は士気が低い。


理由は、相手のほうが明らかに数が多いからである。


草原を埋め尽くさんばかりに展開されたジルフィンド軍は、まさしく大軍。


これだけの大軍と衝突したら、数だけで押し負ける。


末端の兵士でも、その程度のことは想像できるだろう。


(逆に、相手軍あいてぐんの士気は高そうだ)


士気の高さ、低さは、いくさの勝敗にも大きく関わる。


ゆえに必ず、士気をひっくり返す策を講じなければならない。


まあ、大丈夫だ。


私にはそのプランがある。


だから私自身は、不安も絶望もなく、ほどよい緊張感に包まれていた。


「ルチル様」


とベアール将軍が声をかけてきた。


「あちらをご覧下さい」


「ん……」


ベアールさんが示唆しさしたのは、敵軍てきぐんのほうである。


ジルフィンド公国軍から、こちらに向かって歩いてくる二人の人影があった。


おそらく公国軍の将軍二人。


その二人は、両軍の合間あいまに位置する場所で立ち止まる。


ベアールさんが説明する。


「代表同士の挨拶というやつです。我々も参りましょう」


「そうですわね」


私はベアールさんとともに歩き出した。


敵将軍てきしょうぐん2人と5メートルほどの距離まで近づく。


すると、私から見て左のほうに立っていた敵将軍が言った。


「はじめまして。私はジルフィンド軍の総指揮官そうしきかん、ヒズナルだ」


ヒズナルと名乗った男は、ヒゲを生やしたオッサンである。


いけ好かない雰囲気をかもしだしている。


しかしかなり鍛え上げられた肉体をしており、将軍服の下からでも、筋肉の大柄さがわかる。


……こいつが敵の大将ヒズナルか。


ヒズナルはさらに横に立っていた男を紹介する。


「こちらはナナバール副指揮官ふくしきかんである」


「ナナバールです。よろしくお願いします」


とナナバールが言った。


青い髪、黄色い瞳。


キザな顔つきの男である。


軍服に身を包んでいる。


彼が剣星ナナバール……


戦の天才と謳われた軍人か。

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