第6章181話:作戦

「ルチル様はこの局面、どうご覧になられる?」


ベアールさんが尋ねてきた。


私は答える。


兵法へいほうの常識に照らせば、ここまで兵の数に差がある時点で、敗北は濃厚と思われますわね」


「そうですな。いくらなんでも数の差がありすぎる」


1万vs4万。


勝負になるわけがないし、数に押しつぶされて終わるだろう。


ベアールは言った。


「しかし、撤退も敗北も許されませぬ。副司令として、この劣勢を打開する妙案みょうあんはございませんかな?」


「……」


本来、副司令官が策を考えたりはしない。


そういうのは軍師などに任せて、司令官は意思決定をおこなうだけだ。


しかし、ゲーム知識のある私以外に、この状況を打破できる案を出せる者はいないだろう。


私は告げた。


「一応、プランはございますわ」


「ほう、どのような?」


とベアールさんが尋ねる。


私は答えた。


「まずフロヴィッツとりでにいる兵士を、フロヴィッツ草原そうげんに進軍させて、じんを構築します」


フロヴィッツ草原とはフロヴィッツとりでの前方に広がる草原だ。


ゲームではここが最初の主戦場しゅせんじょうとなっている。


ベアールさんが顔をしかめた。


「つまり野戦やせんを仕掛けると?」


「はい」


「お言葉ですが、それは厳しい選択ではありませんかな。これだけの兵数差へいすうさがあるなら、砦にこもって籠城戦ろうじょうせんを仕掛けたほうがいいと愚考ぐこういたしますが」


ベアールさんは言葉を選んではいたが、『この程度もわからぬ小娘こむすめか』と顔に出ていた。


彼女はおそらく、私のことをもとからこころよくは思っていない。


なぜなら私が「ルーガの娘」というだけで副司令官に選ばれたからだ。


ベアールさんは叩き上げの実力者。


そういう実力主義の人間ほど、血筋ちすじを重視する血統主義を嫌う。


彼女から信頼を勝ち得るには、私の実力というものを示さなければならないだろう。


「まあまあ。私の考えた策を、一度お聞きになってくださいまし―――――」


と告げてから、ゲーム知識で得た策を述べる。


どのように陣を展開するか。


そうすれば敵軍がどのように動くか。


私は、何もかもがゲーム通りになると思っていない。


だから、ゲーム知識と、私が異世界でつちかってきた軍事知識を交えて、語る。


最初はテキトーにあいづちを打っていたベアールさんが、だんだんと真剣な顔になっていった。


私が全てを語り終えたあと、ベアールさんが言った。


「なるほど……確かに、良案かと存じます」


と認めてくれる。


さらにベアールさんが尋ねてくる。


「ただ一つ懸念点けねんてんがあります。ルチル様の作戦では、魔法銃まほうじゅうが有効に機能することが肝要かんようになっておりますが……本当に、その魔法銃とやらは、おっしゃるほどの制圧力せいあつりょくを発揮できるのでしょうか」


そう。


私の提案した作戦プランでは、魔法銃をふんだんに使用することが盛り込まれている。


もしも魔法銃が通用しなければ、作戦自体が破綻するほどだ。


魔法銃の威力を知らなければ、不安に思うのも無理はない。


「その点については、ご心配には及びませんわ。……信じられませんか?」


「……まあ、ルーガ閣下かっかのお墨付すみつきの武器と聞き及んでおりますので、信じないつもりはございませんが」


とベアールさんが答える。


「では、この作戦を主軸しゅじくにして、準備を始めましょう」


と私は言った。

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