第6章180話:戦の天才

ベアールさんが尋ねる。


「敵の大将は?」


「ヒズナル将軍です」


「ヒズナル……」


「また、情報によると剣星けんせいナナバールも、ヒズナル軍に参加しているようです」


「なんだと」


剣星ナナバール。


その言葉に、ベアールさんが顔をしかめる。


エドゥアルトが尋ねる。


「ナナバールといえば、戦の天才と名高い、あのナナバール将軍のことでしょうか」


「そのナナバールですな」


と大隊長は答えた。


【剣星】という異名を持ち、戦の天才と謳われるナナバール。


数々の戦場において、大胆な発想力で、不利な戦況を何度も覆してきた最強軍人。


ジルフィンド公国以外にも、その雷名らいめいとどろいている。


しかし、なんてことはない。


戦の天才ナナバールとは……


源義経みなもとのよしつねがモデルだからだ!


(そして、ナナバールとの戦いは、あの一ノ谷の戦いをモデルにしているんだよね)


一ノ谷の合戦は、日本史でも出てくるレベルの超有名ないくさだ。


源義経が、崖としかいいようがない急峻きゅうしゅんな坂を、馬で駆け下りて、敵軍の背後から奇襲をおこなった逸話いつわが残っている。


いわゆる―――鵯越ひよどりごえのさかおとし。


ナナバールは、義経よしつねとまったく同じ戦法で奇襲を仕掛けてくる。


普通ならまず対応できない奇襲攻撃だが……


(私にはゲーム知識がある。タネがわかってるなら、怖くないよね)


奇襲は、思いもよらないから奇襲なのである。


バレている攻撃を奇襲とは呼ばない。


相手の作戦がわかっているなら対応は可能だ。


ナナバールなど怖くない。


……ただ、私はそう思っているものの、他の面々はそうじゃなかった。


ナナバールが参戦していると聞いて、険しい面持おももちだ。


「正直、厳しいいくさだな。我々の軍は1万程度。対する相手は4万。しかもナナバールか……」


とベアールさんはため息をつく。


確かに厳しい状況だ。


いくさとは、数こそ正義。


数で上回り、数の暴力で圧倒することが正攻法である。


逆に、少ない兵力によって大軍を蹴散らそうとするのは、カッコイイかもしれないが、邪道だ。


ゆえに戦争とは「兵の数を集める」ところから始まっているし……


兵数へいすうで大差をつけられた時点で、始まる前から負けているともいえる。

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