第6章178話:作戦

「では、戦争の概要と作戦について簡単に説明しよう。ああ、そうそう」


そのとき父上はエドゥアルトたちのほうに顔を向けた。


「本来なら、説明の前に人払いをするところだが……エドゥアルト、ならびに、フランカ。お前たち二人にも、戦争に参加してもらおう」


「……!」


「わ、私たちが、ですか」


エドゥアルトと、フランカが、驚く。


「専属騎士であるエドゥアルト……そして、わが傘下さんかにあるビシュケース家の長女にして、ルチルの取り巻きであるフランカ。お前たちの実力は申し分ない。戦争において、ルチルの護衛を任せたい。やってもらえるかな?」


と、父上が尋ねた。


エドゥアルトと、フランカが、敬礼をしながら答える。


「はっ! この命にかえても、ルチル様をお守りいたします!」


「わ、私も、頑張ります!」


「うむ。尽力してくれたまえ」


と、父上が静かに告げた。


さらに父上は、アリアに目を向ける。


作戦の説明において、アリアは必要ない。


アリアは父上の視線を察して、静かに一礼してから、部屋を出て行った。


これで人払いは完了である。






「さて、では戦争の概要について説明しよう」


父上は地図を取り出して、説明を開始した。


地図には、クランネル王国とジルフィンド公国の国境……


および、国境周辺が描かれている。


「まず、ジルフィンド軍の数が8万」


「は、8万……!?」


と、私が驚きの声を漏らす。


異世界の戦争なんて、3000人や5000人での対決が普通。


多くて1万人程度の兵力となるだろうに、8万とは。


とんでもない大軍である。


ジルフィンド公国が、クランネル王国を本気で潰すつもりで侵攻してきているのがわかる。


父上が指でさし示す。


「まず既に、国境の関所せきしょが突破されている。現在は、その8万ものジルフィンド軍を、国境手前こっきょうてまえ諸都市しょとしが食い止めている。だが、それも突破されるのは時間の問題だろう」


国境近くを守っているクランネル兵たちだけで、ジルフィンドの大軍を受け止めるのは不可能だ。


付近の砦や都市は陥落し、突破されることは確実……と見たほうがいい。


「国境付近の諸都市を突破したジルフィンド軍は、おそらく、このように移動し、ここで二手に分かれるだろう」


父上が指差した地図上には、大きな山脈があった。


その山脈を避ける形で、道が南北の二つに分かれている。


「北の道を進んだ敵軍は、北の砦アーガルシュにたどりつく」


と、父上が、北側の道の先にある砦を指差した。


「南の道を進んだ敵軍は、南の砦フロヴィッツにたどりつく」


と、父上が、南側の道の先にある砦を指差した。


「北の砦アーガルシュ、南の砦フロヴィッツ……この二つの砦は、どちらか一つでも落とされるわけにはいかない。片方でも陥落すれば、敵軍は、クランネル王国の奥深くまで入り込んでしまう」


つまり二つの砦は、要所。


天王山……とまではいかないまでも、落とされると苦しいポイントということだ。


「ゆえに、わがクランネル王国軍も、兵力を二つに分ける。私が北の砦アーガルシュの防衛を担当する。そしてルチル……お前には、南の砦フロヴィッツの防衛を担当してもらいたい」


と、父上は言った。


「承知いたしましたわ」


と、私は答える。

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