第6章177話:副司令官

父上はさらに告げた。


「あと、お前には臨時であるが、副司令ふくしれいの役目を担ってもらう」


「なっ!?」


さすがに、その発言には驚いた。


軍のトップたる父上は総司令官そうしれいかん


副司令とは、そのすぐ下に来る、軍のナンバーツーだ。


父上の次に、軍を動かす権利を持っている立場である。


「お前には、指揮官の経験を積ませたことはなかったからな。今回が、その初陣ういじんというわけだ」


と、父は言った。


私は尋ねる。


「でも、そんな急な抜擢ばってきが可能なものなんですの? もともと副司令だった人に怒られません?」


「いいや。現在、副司令の座は空席だ。ゆえにお前を起用しても、何も問題はない」


そうなのか……。


「ル、ルーガ様……」


と、そのときアリアが口を挟んだ。


「さすがにルチル様に、いきなり副司令を命じられるのは、その……」


時期尚早じきしょうそうだと思うか?」


「……はい」


と、アリアが答える。


父上は言った。


「私はそう思わん。ルチルは未来の王族だ。ならば、一軍いちぐんしょうとして、部下を率いるリーダーシップも持つべきだろう」


この異世界では、王族とは後ろでふんぞり返っている者ではない。


なぜなら、武力こそ正義の世界だからだ。


強い者が生き残り、君臨する世界。


だから軍事において結果を出すことは、王族において非常に重要である。


副司令官となると、死ぬかもしれない前線で指示を飛ばすことが求められるが……


そこで本当に死ぬようならば、その程度の将器しょうきだったと思われるだけだ。


ちなみに、現女王げんじょうおうミジェラも、かつて最前線で指揮を執り、自らの手で敵将すら討ち取った経歴を持っている。


(まあ未来の王族と言われても、私はアレックスの王妃になるつもりはないんだけどね)


だから、本当なら戦争での実績なんて要らない。


しかし、私がアレックスとの婚約破棄を目論もくろんでいることは、みんな知らない。


現時点においては、次期王妃たる実績を積んでおかなければならないだろう。


「承知いたしました」


と、私は答える。


「副司令の座、慎んで拝命させていただきますわ」


「うむ!」


と、父上は嬉しそうに微笑んだ。

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