第5章169話:依頼

私は微笑んでから、本題を切り出すことにした。


「ところで、あなたに一つ依頼があるのですが」


そう前置きする。


レオンは首をかしげた。


「依頼?」


「はい。王国南西おうこくなんせいの地に【ホーリスの森】という森林地帯がありますわ。その森林の奥には祭壇がありまして、その祭壇に飾られた古鏡ふるかがみを取ってきてもらいたいんですの」


「……鏡?」


「なかなか取りにくい場所にありまして、取るのをあきらめていたのですわ。どうかお願いできませんですかしら?」


――――ホーリスの森の古鏡。


この鏡は、レオンが聖剣士へと覚醒するのに必須のアイテムである。


ゆえに、本人に取ってこさせることにした。


「もちろんタダで、とは言いませんわ。もし取ってきてくださったら……この店の特別メニューを、レオンさんに食べさせてあげましょう」


「なんだと?」


レオンが興味を示す。


実は特別メニューなんてないのだが、今、考えた。


私は告げる。


「その特別メニューの名は――――もつ鍋」


「もつ……鍋……」


「ええ。その名の通り、鍋ですから、秋か冬にでもお出しさせていただこうと思います。はっきり申し上げて、めちゃくちゃ美味しいですわよ」


「……」


レオンはこの店の料理の素晴らしさを知っている。


食いついてこないわけがなかった。


「わかった。その依頼、引き受ける」


「そうですか。助かりますわ」


「いつまでにこなせばいい?」


「10月15日までを期限といたしましょう」


実際は、急ぐ必要はないのだが……


早いに越したことはないからね。


「了解した。期限までには必ず、依頼を達成する」


「よろしく頼みますわ」


私はそう答える。


これ以上、話を続けては、レオンの食事の邪魔になると思った。


なので私は、スタッフルームに戻ることにした。







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