第5章168話:意外な客
<ルチル視点>
夏のある日。
私は、王都で開店した【炭火とビール亭】を訪れていた。
自分の店の様子を視察しにきたついでに……
焼き鳥を食べようと思ったからだ!
そこで、私は意外な客を発見した。
(ん!? レオン!?)
なんとレオンがいたのだ。
カウンターの端っこの席に座っている。
なんこつを食べて、ビールを飲んでいる。
私は、いったんカウンター奥の扉を抜けて、スタッフルームに引っ込んだ。
レオンについて、従業員たちに尋ねる。
「ああ、あのお客様ですね――――」
と、従業員が説明してくれる。
それによると、どうやらレオンは、最近この【炭火とビール亭】によく通ってくるようになったらしい。
ここ二週間、ほとんど毎日のように通いつめている客なんだとか。
(なるほど……)
まさかゲームの男主人公レオンが、私の店の常連になりつつあるのか。
意外すぎる話だ。
「あ、そうだ」
と、そのとき私は、大事なことを思いついた。
ゲームの女主人公ラクティアは、ゆくゆくは聖女となるのだが……
実はレオンも、聖女とならぶ存在――――【
そして聖女であるラクティアと力をあわせてラスボスを倒す、というストーリーである。
ラスボスを倒すためにはレオンの力が必要だ。
というわけで私は、レオンの力が覚醒するために、手助けすることにした。
私はカウンターの奥から声をかける。
「レオンさん」
「……?」
せせりを食べて楽しんでいたレオンが、顔を上げる。
私を見て、目を細めた。
「あんたは……あのときの」
あのとき、というのは、入学式のときのことを言っているのだろう。
レオンとラクティアが貴族の子女と口論になっているところを、私が助けてあげたのだ。
私は言う。
「その節はどうも。お久しぶりですわね」
「……ああ」
レオンはそっけなく返事をした。
さらに尋ねてくる。
「……あんた、ここの店員なのかよ?」
私がカウンターの中にいるからだろう。
店員だと推測したようだ。
しかし、私は店員ではない。
「わたくしは店員ではなく、経営者ですわ」
「……は?」
「つまりこの店は、わたくしが会長を務めるルチル商会の、店舗の一つなのです」
そう告げると、レオンは目を見開く。
「……まじかよ」
と心底驚いているようだった。
私は告げた。
「ずいぶんと、わたくしが考案した焼き鳥や、ビールを気に入っていただけているようで……何よりですわ」
「……あんたが考えたのかよ、これ」
「ええ。この店の料理は全て、わたくしの発案ですわ」
私は答える。
レオンは数瞬、押し黙ってから小さくつぶやいた。
「あんた、マジですげーんだな……」
「え?」
「……なんでもねえ」
と、レオンはぶっきらぼうに告げてから、せせりをがぶっと食べる。
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おしらせ:
新作を投稿しました! 女主人公の異世界ファンタジーです。
本作とあわせて、是非お読みいただけると幸いです!
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