第5章165話:レオン視点2

<レオン視点・続き>


翌日。


フローウルフの素材が入った布袋を持って、王都への道のりを歩く。


歩く。


歩く。


歩く。


そして、夜のとばりが降り始めたころ。


ようやく王都に帰りついた。


正門を通って王都に入る。


そのまま冒険者ギルドへ。


素材を売り払って換金。


フローウルフは良い金になり、そこそこの実入りになった。


そのお金を持って、街を歩く。


このまま下宿先のアパートメントに帰ってもよかったが……


なんとなく街をぶらつきたくて、王都の路上を歩いた。


王都は夜でも賑やかだ。


あちこちで酒場が営業していて、仕事終わりの客が出入りしている。


そんな夜の喧騒を眺めながら、なんとはなしに歩いていると……


ふと話しかけてくる者がいた。


「お兄さん! よければ焼き鳥を食べていきませんか?」


居酒屋の呼び込み店員だった。


手には皿に乗せた焼き鳥を持っている。


レオンはそっけなく返事した。


「気分じゃない」


「まあまあそう言わずに! うちの焼き鳥は、他とはレベルが違いますよー!」


ちっ、とレオンは舌打ちした。


そんな呼び込み、どこの店もやっているだろうに。


「炭火焼という手法を使っておりましてー! まあ、騙されたと思って、一本試食していってください! 無料ですから」


「……? タダなのか?」


「はい。試食サービスですからね!」


……試食サービス。


はじめて聞いたな。


「誰にでもタダで売ってるってことか? それだと儲けが出ないだろ」


「試食で興味を持ってもらえれば、結果的に売れますから。それぐらい自信がある焼き鳥なんですよー!」


「……」


よほど自信があるようだ。


……まあ、タダなら一本ぐらい、食べてもいいか。


女性店員の持っていた焼き鳥を、一本、手に取る。


それを無造作に口に運んだ。


そして、驚愕する。


「なっ……」


なんだ、これ?


美味い。


いや、美味いなんてものじゃない。


美味すぎて、あっという間に一本食べ切ってしまう。


女性店員は不敵に笑った。


「ふふ、美味しいでしょう? 私もはじめて食べたとき、びっくりしましたから」


悔しいが、この店員の言う通りだ。


正直、驚いた。


なるほど自信をもって勧めてくるわけだ。


「続きは居酒屋でどうぞ。焼き鳥もそうですが、ビールも美味しいですよ!」


ビール?


聞き慣れない言葉だ。


とりあえず、この焼き鳥は一本では足りない。


もっと食べたい。


そう思い、その居酒屋――――【炭火とビール亭】に入ってみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る