第5章163話:兵隊5
私は告げた。
「では、アスレチック訓練。はじめ!」
兵士たちが、開始する。
まずは【ハードルくぐり】のほふく前進から。
一つ一つこなしていく。
余裕だろうと高をくくっていた様子の兵士たち。
しかし、始まってすぐに、顔色が変わった。
1周を過ぎて、スタート地点に戻ってきたとき。
兵士たちは既に息がめちゃくちゃ荒れていた。
「はぁ……はぁ……これ、まじかよ」
「めちゃくちゃキツイわ……」
「まだ1周!?」
「これを5周とか……無理だろ」
「し、しぬっ……」
兵士たちも、アスレチック訓練の恐ろしさを理解したようだ。
今回のアスレチックは、無酸素運動が連続しすぎないように、強度にバラつきをもたせている。
とはいえ。
乳酸は高い水準で推移するだろうし、過酷である。
2周目でへろへろになる者が現れ……
3周目には、身体が動かなくなる者が出てきた。
特にボルダリング訓練。
アスレチックの中で最も乳酸がたまる訓練であり……
実際、クライミングウォールを昇りきれなくなった兵士たちが増えてきた。
シャルティアさんが怒号を飛ばす。
「おいコラ! 何度も落ちるな!」
仁王立ちになったシャルティアさんが、鬼教官のごとく告げる。
「崖をのぼる訓練だって言ってるだろうが! お前ら苦しくなったら、崖の途中で手を離すのかこの野郎!?」
「「「すみません!!!」」」
「すみませんじゃないんだよ! 一回で昇れ! うしろがつっかえてるだろうが!」
「「「はい!!」」」
と、絶叫するように返事をする兵士たち。
全員汗だくであり、息を激しく乱している。
一方、前の人がボルダリングを昇るまでのあいだ。
後ろの人は空気椅子の状態で待機しなくてはいけない。
しかし、膝をしっかり曲げていない兵士も多い。
私は叱った。
「そこの3人。もっと膝を曲げて、腰を落としなさい」
「「「は、はい!」」」
「空気椅子の膝角度は90度を守りなさい。あと背中を丸めるのではなく、背筋を伸ばして、目線は前。……きつくなってきたからといって、ラクな姿勢は取らないこと。ラクをしたら意味がありませんもの」
人間は、本能的にラクな姿勢を取りたくなるものだ。
しかし、苦しくても正しいフォームを維持することで、筋肉は鍛えられる。
「あ、あぁ……ッ」
と、空気椅子に耐えられずに膝を伸ばしたりする者がいた。
シャルティアさんが叱る。
「おい、膝を伸ばすな! 90度の角度を守れといわれただろう!?」
「は、はい……! く、あああぁっ!」
「うるさい! いちいち叫ぶなッ! 腰をもっと下げろ」
と、怒鳴り散らす。
壮絶である。
半泣きになっている者もいた。
だが、これが軍隊というものだ。
ゼエゼエ言いながら、兵士たちはなんとか、残り2周をおこなう。
最後のほうは、もう、やけくそのズタボロになりながら、アスレチックをこなしていた。
「みなさん、お疲れ様。本日の訓練は、これで終了ですわ」
すっかり疲弊しきった兵士たちに、私は告げる。
かくして。
1日のトレーニングが終了した。
アスレチック訓練を終えた兵士たちは、精根尽き果てた様子だった。
「このあと夕飯を召し上がっていただきますわ。疲れで食欲がない人がいても、無理にでも食べてもらいます。食べることも訓練ですからね」
と、告げておく。
あとはシャルティアさんたちに任せて、私は帰宅することにした。
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