第5章161話:他者視点

<他者視点>


ルチル隊の副隊長に任じられたシャルティア。


同じく、隊長補佐官に任じられたホーヴァン。


現在、二人は、ルチルから魔法銃を渡され……


兵士に混じって銃撃の訓練をやらされていた。


『的』は、ルチルが用意した大きなミスリル塊である。


3メートルの高さがあるミスリルの岩塊。


岩塊には20センチほどの『円』のマークが描かれており、その円の中心を狙って、銃撃する訓練だ。


「……」


副隊長シャルティアは、魔法銃を構える。


的に向かって、撃つ。


ズバァンッ!


『円』の内側が削れる。


射撃成功だ。


「このような武器が……」


と、副隊長シャルティアは、驚きを隠せない。


弾丸の速度は弓矢よりすさまじく。


威力はミスリルの表面を削れる程度には強い。


しかも連射も可能である。


革新的だ、とシャルティアは思った。


シャルティアの隣で、隊長補佐官であるホーヴァンも、感心している。


「即座に5発以上撃てる連射性能と、弾丸の速度。ミスリルに傷を与える攻撃力……素晴らしい」


ホーヴァンは、言った。


「この武器が実戦配備されたら、戦争が変わりますよ」


「そうだな」


と、シャルティアは同意した。


新兵たちと違って、シャルティアとホーヴァンには戦争の経験がある。


ゆえに、魔法銃の計り知れない可能性を感じていた。


シャルティアは言う。


「相手の間合いの外から撃ち放題であるし、弾が速いので不意打ちにも極めて有効だ。それに――――」


シャルティアは、銃を練習をする新兵たちに視線をやる。


「新兵ですら、撃つのが難しくない。弓を覚えるには5年はかかるが、この魔法銃はたぶん、そんなにかからない」


山なりの軌道で飛んでいく矢と違い、銃弾の軌道は直線的だ。


初心者でもかなり扱いやすい武器である。


これは、本当に恐ろしい話である。


少し練習するだけで、誰でも強力な遠距離攻撃を可能にできる、新型武器。


もし、そんなものが大量生産されたら……


戦争がどう変わってしまうのか、シャルティアは想像し、身震いした。


(錬金術の天才とも呼び声の高い、ルチル・ミアストーン様。錬金術なんて、ポーションづくりにしか役に立たないと思っていたが……)


シャルティアは、自身の認識を改める。


たいていの錬金術師は、ポーションや解毒剤を作る薬師に過ぎない。


しかし、ルチルは違うのだ。


己の才能だけで、既存の常識を変えてしまう……稀代の発明家。


だから天才と呼ばれるのだと、シャルティアは理解した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る