第5章159話:兵隊2

兵士たちが素振りを止める。


私に視線を注目した。


なお、遠くの兵士には声が届きにくいかと思うので【拡声の魔石】を使って、声のボリュームを大きくする。


「みなさん、剣の振りも、身体の使い方もメチャクチャですわ。――――そこのあなた」


「は、はい!」


「前に出なさい」


と、一人の女性兵士を指名する。


おずおずと女性兵士が前に出てくる。


その場にいた全員が、私と女性兵士に注目した。


「上段に構えなさい」


「え?」


「木剣を、上段に構えなさい、と言ったのですわ」


「は、はい!」


と、答え、女性兵士が木剣を上段に構える。


剣を振りかぶった状態で制止する。


私は告げる。


「まず、腕の角度はこうです」


と、私は女性兵士の腕をつかむ。


「斬撃は、力任せに振ればいいというものではありませんわ。剛剣ではなく、やわらかく、しなるように振らなければなりません。そのために意識すべきことは、ほどよい脱力とタメです」


さらに告げる。


「たとえばこの腕の角度では、タメが入らず、手首と肩だけで振ってしまいますわ。ゆえに、このように少し前で構えるようにします。そうすると、振り下ろす際に、しなりを持たせやすくなります。いいですか、注意すべきは腕、ひじ、剣の角度で―――――」


と、説明していく。


感覚で教えるのではなく、あくまで理論的に。


どんな初心者でも、着実に上達できるように。


肩の位置、腕の角度、ひじ、ひざ、剣の向き。


剣を振る始点と終点の位置。


そういったことを「なんとなく」で済ませず、丁寧に、解説していく。


「――――と、こういったことを意識して剣を振りなさい。さ、やってみて」


「は、はい!」


と、女性兵士は言われるがまま、上段の素振りをする。


「あ……」


と、女性兵士は声を漏らした。


自分でも気づいたようだ。


私が教えたとおりにやると、力を伝えやすく、剣撃のキレが変わることに。


「一気に良くなりましたわね。あなたには剣術のセンスがありますわ」


「あ、ありがとうございます!」


と、女性兵士は嬉しそうに破顔した。


上達すれば、誰だって嬉しいものだ。


女性兵士の進化を見て、他の兵士たちも、顔色が変わった。


そんな兵士たちに、私は言う。


「いいですか。素振りというのは、ただテキトーに剣を振っていればいいわけではありませんわ。剣を振るたびに、さまざまなことを確認しなさい。剣の始点、終点、肩の位置、角度……そうして、自分にとって、気持ちよく剣を振るえるポイントを探しなさい」


さらに続ける。


「一回一回、丁寧に自己分析をおこなえば、剣を一度振るごとに、一つ上達することができます。それを10万回、100万回と積み重ねれば、ひとかどの剣士になることも可能でしょう」


実際には素振りだけでは、剣達者けんだっしゃにはなれない。


いろいろな修行を積まなければ、強くなることはできない。


しかし、私が言わんとすることは、兵士たちに伝わったようだ。


兵士たちのやる気が高まったのを感じる。


私は言った。


「さあ、では、再開してください」


と、私は告げた。


兵士たちは素振りを再開した。


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