第5章157話:食事2

静かな語らいとともに、夕食が進む。


ふと、こんな話題が出てきた。


「ところで、アレックス王子のことだが……」


と父上は前置きしてから、尋ねてきた。


「お前は、王子との仲が良くないのか?」


父上は、見極めるような目で見つめてくる。


その目は、どこか心配げでもあった。


(これは、私がゼリスと決闘したことを聞いた感じかな)


と、私は推測する。


そりゃ、ゼリスとアレックスがあれだけ派手に暴れたら、父上の耳にも入るだろう。


父上がどの程度、私とアレックスの不仲について理解しているかはわからないが……


下手なウソはよくないな。


私は慎重に言葉を選んで、答えた。


「まあ、少しアレックスと喧嘩をしてしまっているのは事実ですわ」


「……ふむ」


「その喧嘩は、ゼリスの横恋慕よこれんぼが原因ですの。私からアレックスを奪い取ろうとしていますもの!」


さも私がアレックスを愛しているが、ゼリスが邪魔しようとしている……的なニュアンスを込めておく。


父上は聞いてきた。


「ゼリスというのは、子爵家の女らしいな?」


「ご存知でしたか」


やっぱり父上は、ある程度、調べてるな。


「子爵の娘ごときが、お前とアレックスの仲を邪魔しようなどと……己の身分をわきまえさせたほうがよさそうだな」


父上が、恐ろしげなことを言い出した。


この言い方、どんな過激な行動に出るかわからない。


私は慌てて口を挟んだ。


「その必要はございませんわ」


「ん……」


「わたくしにとってゼリスは、取るに足らない相手ですもの。決闘のときの彼女は、それはそれはひどいものでした。あのような方ならば、むしろ、いてくれたほうが都合が良いこともありますわ」


私の言葉に、父上は少し考えるような顔をした。


私は今、言外に、こう告げたのだ。


『ゼリスは、都合のいい引き立て役だから、このまま泳がせたほうがよい』


と。


すると父上は、こう考えるだろう。


『ゼリスが無様をさらせば、相対的に、ルチルの価値は上がる』


『もしアレックスがルチルを切り捨ててゼリスを選ぼうとすれば、その不義理を理由に、ミアストーン家は王家に対して優位に立てる』


『アレックスとゼリスが暴れるぶんには、ミアストーン家が損をすることはない』


と。


ややあって父上は言った。


「わかった。ゼリスに干渉はしないでおこう。だが……足元をすくわれるようなことはするなよ?」


「もちろんですわ」


と、私は答えた。


そのとき。


父上は新しい話題を振ってきた。


「ああ、そうそう。お前に話すべきことがあったのだ」


「……? なんですの?」


「お前に兵隊を授けようと思っている」


「兵隊?」


私は首をかしげる。


「お前にも、兵士を束ねる経験を積ませておきたいと思ってな。お前はいずれ国を背負う王妃となるのだから、リーダーシップを磨くことも重要であるし、王族は、軍を動かす実力があったほうがいい」


ふむ。


まあ、王族は通常、軍総司令官ぐんそうしれいかんと並ぶ、軍のツートップだからね。


王が戦争の指揮を執ることも、異世界ではザラにある。


今のうちに、その経験をさせておこうというのが、父上の狙いか。


まあ私はアレックスと破局する予定なので、王妃になるつもりはないのだが……


現段階では、次期王妃を目指すフリをしておくべきだろう。


それに。


(自分が好きにできる兵隊を、いつか持ちたいと思ってたからね)


戦争の多い異世界。


いざというときに動かせる、自分だけの部隊が欲しいと考えていた。


なので、私は、父上の話を承諾することにした。

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