第5章154話:新商品

「マキとフランカにはご迷惑をおかけすることになりましたわね。お詫びいたしますわ」


するとマキがうつむいて言った。


「いえ……元はといえば、噂が流れたのは私のせいだと思いますので」


「……? どういうことですの?」


私が尋ねると、マキは顔を赤らめて、自白した。


「実は……ここでパンケーキを食べたことを、私が周囲に自慢してしまったのです。そこから、ルチル様のお茶会に招かれれば、パンケーキを食べられるという噂につながったのだと思います」


「なるほど……」


そんな経緯があったのか。


私は言った。


「まあ、もともとパンケーキはお茶会のために作ったものですから……噂の内容が間違っているわけではありませんわ」


「そうなのですか?」


「ええ。女王陛下にも、お茶会で出していいと許可をいただいておりますわよ」


私の言葉を聞いて、エドゥアルトが尋ねてきた。


「では、今後お茶会を開いたとして、パンケーキを出すつもりなんですか?」


「一応そのつもりですわね」


すると、フランカが笑って言う。


「きっと大学の歴代で、一番ぜいたくなお茶会になりますよね。王国最高の菓子が出てくるお茶会なんですから」


そうかもしれない。


いずれにしても、少しずつ、他の貴族たちを交えたお茶会を始めていくべきだろう。


人脈を形成しておきたい貴族もいるしね。








――――初夏。


私は、屋敷でのんびり過ごす。


夜。


自室でエールを飲みながら、ふと思った。


「エール、悪くないですけど、物足りないですわね」


薄々、思っていたことではあった。


お酒の品質の低さ……!


異世界の酒は、ハッキリいって、微妙である。


悪くはないのだが、前世のソレに比べると、やはり味は劣る。


「こうなったら、自作するしかありませんわね」


思い立ったが吉日。


私は、ビールを製作した。






後日。


アリアが家にやってきたので、食堂にてビールを披露した。


「それは何でしょう!?」


ビールを見せると、アリアが身を乗り出して聞いてくる。


私はにやりと笑った。


「ビールですわ」


「ビール……これは、黄金のお酒ですか。見た目からしてゴージャスですね」


「別に高級品ではありませんわよ」


「そうなのですか?」


「ええ、エールの代わりになるものですから。あ……少し待っていてください。このビールを冷やしますから」


「冷やす? ルチル様は氷魔法を使えるようになったのですか?」


「まあ、そんなところですわね」


科学の知識を意識しながら錬金術をおこなうと、水やジュースは簡単に冷やせる。


おかげで、いちいち氷魔法使いを雇わなくても、冷たいジュースや酒にありつけるのだ。


「さあ、できましたわよ」


私はビールをキンキンに冷やす。


グラスに結露が出るほど、冷たくなったビール。


アリアはグラスを手に取り、眺めた。


そして、口に運ぶ。


「……!! これは美味しいですね! 苦味の中に、旨味があって……たまりません!」


「ええ、そうでしょう。疲れたときや暑いときに飲むと最高なのですわ」


アリアは気に入ったのか、さらにビールをあおっている。


ビールは確かに美味い。


「これは絶対に売れますね! さっそく販売の手続きを開始しましょう!」


と、アリアが意気込んだ。


(まあ、人気が出る商品なのは間違いないだろうけど……)


これを販売するなら、やはりキンキンに冷えた状態が一番だ。


ぬるいビールなどでは、味わいが半減してしまう。


もし売るとなれば、安価でビールを冷やせる仕組みが欲しいところだ。


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