第4章149話:決闘終了

「聞け! 観客ども!」


と、アレックスは観客に向かって言い放った。


その声は、闘技場に配置された【拡声の魔石】によって、場内全体に広がる。


「ゼリスは正々堂々、ルチルと戦った! 敗北したとはいえ、何度も果敢に立ち向かった姿は、美しく、尊いものだっただろう!」


ものは言いよう、とは、このことである。


実際は、ゼリスの行為を、見苦しいと思った観客も多いと思うが……


「そんなゼリスに罵声ばせいを浴びせるなど、騎士道に反すると知れ!」


アレックスはそう訴える。


そして、こんなことを言い出した。


「私の言葉を理解し、正しいと思った者は、ただちに拍手をせよ! さあ、いますぐ!」


観客がどよめく。


困惑の波が広がる。


拍手をする者はいない。


アレックスは舌打ちをした。


「無礼者どもが。騎士道を知らぬ愚者ども。恥を知れ!!」


そう観客に向かって吐き捨てて、アレックスはゼリスを抱え起こした。


「ゼリス、大丈夫か?」


「はい。アレックス様」


「帰ろう。こんなところにいては、心がゆがむ」


「はい!」


と、二人だけの空間に入って、帰り始めた。


私はその背中を呆れたように見つめる。


観客たちの反応は冷え冷えである。





「なんだよ、あの王子?」


「意味わかんねえ」


「あたしたちが悪いって言いたいの?」


「ルチル様に言いがかりをつけてたのはゼリスのほうなのに」


「ゼリスは戦いぶりもひどかったよな。明らかに負けてたのに、何度もごねてさ」


「アレックス王子は、あんなメチャクチャな戦いを肯定してるんですの?」


「ルチル様もお怒りになっていいんじゃないの? さすがにこれは、ひどいと思うわ」


「王子もゼリスも、ヤバイやつだったな」






当然といえば当然かもしれないが、非難轟々ひなんごうごうである。


まあ、とりあえず、決闘は終了した。


私もなんだか疲れちゃったので、ティールームにでも戻って、ひと休みすることにしよう。

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