第4章148話:アレックスの怒り

「まだァ!!」


と、ゼリスがやけくそ気味に斬りかかってくる。


「ふっ!!」


最後に、トドメの一撃を放つ。


その一撃が、ゼリスの木剣を跳ね飛ばした。


「あっ!!?」


木剣を失ったゼリスが、途方に暮れる。


私は、その首筋に向けて、木剣を突きつける。


「もう十分でしょう」


「……っ」


ゼリスは、その場にくずおれた。


力なく座り込む。


私は審判に視線を送った。


「審判」


「は、はい! 決闘は、ルチル・ミアストーンの勝利です!」


審判が宣言する。


観客たちが一斉に拍手をした。


ついでにゼリスに対するヤジが飛ぶ。





「当たり前だー!」


「ゼリス弱すぎ」


「身の程をわきまえろよ、子爵令嬢!」


「剣術もそうですが、まず礼儀というものから学びなおしたらどうですか?」


「二度と言いがかりつけんなよ、ワガママ女!」


「きゃー! ルチル様ー! 素敵ですー!!」





それらの声が、ゼリスに届いているのか、いないのか。


ゼリスはただ、悔しそうにうつむいている。


……と。


そのときだった。


「観客はいい加減にしろ!」


怒号が飛んだ。


聞き覚えのある声である。


声の主が、闘技場の入場口から現れる。


アレックスだった。


観客たちは静まり返る。


アレックスは、悠々と闘技場のグラウンドに現れて、言った。


「見ていたぞ。ルチル」


「……何をでしょう?」


「決闘で、貴様がゼリスをボコボコに叩きのめしたところをだ」


ボコボコに……か。


まあ、否定はしない。


でも、勝負を無駄に続行させまくったのはゼリスのほうだ。


私ばかり責められても困る。


だが。


「貴様は、悪女だ」


と、アレックスは断定するように言った。


「ゼリスは、私のために戦ってくれたのだ。そんな彼女の優しい想いを踏みにじる貴様は、最低のクズだ。貴様には、ゼリスの美しい心が見えなかったのか?」


いや……


あれが美しかっただろうか?


はなはだ疑問である。


「そ、そうです!」


と、ゼリスがアレックスに同調した。


ゼリスは言った。


「ルチル様はひどい人です! アレックス様の苦しみを理解せず、自分勝手に振る舞って! あなたには人の気持ちがわからないんです!」


はぁ……


頭が痛くなってくるな。


私は反論する気も失せて、ため息をつく。


しかし、一つわかったことがある。


なぜアレックスとゼリスが、惹かれあったのか……ということだ。


きっと、頭のおかしいバカ同士、波長が合ったのだろう。


私は、そう確信した。




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