第4章146話:ゼリスの抵抗

あまりにヌルい斬撃だ。


もともとゼリスの攻撃は、大した攻撃ではない。


その攻撃が、怒りに我を忘れて、さらに雑になっている。


ここまでキレを失った斬撃なんて、恐るるに足りない。


私は、


「ふっ!!」


と、呼気を込めた斬撃を放つ。


ゼリスの斬撃と、私の斬撃がぶつかり――――


「きゃあっ!!?」


私の斬撃が、ゼリスの斬撃ごと彼女を吹っ飛ばした。


ゼリスが地面に転ぶ。


私は、ゼリスの眼前に、木剣の切っ先を向ける。


「決着ですわね」


私がそう告げる。


ゼリスは目を見開き、私のことを見上げていた。


木剣を突きつけられたゼリス。


誰が見ても明らかな決着――――


だったはずだが。


「まだです!」


「!?」


ゼリスが、なんと、自身の木剣で、私の木剣を振り払ってきた。


立ち上がったゼリスは、私に斬りかかってくる。


私は困惑しながら告げる。


「は? ちょっと、あなたっ!?」


「まだ終わってないです!」


いや、終わりでしょう!?


そう叫びたくなった。


観客も困惑の声を漏らしている。


私は審判の女性に視線を送って、呼びかける。


「審判!」


「……! ゼ、ゼリスさん、剣を収めなさい! もう勝負はつきました!」


「まだです! 見ての通り、私はまだ戦えます!」


「いいえ。戦えるかどうかではありません。切っ先を向けられた時点で、あなたの負けです!」


「……やっぱり、審判さんは買収されていたんですね!?」


ゼリスが私に斬りかかるのを止めて、審判に言い放った。


審判もさすがに困惑の声をもらす。


「は?」


「だって、私はまだ戦えるのに、敗北の判定を下そうとして……おかしいじゃないですか!」


いや、おかしいのはゼリスのほうだ。


ゼリスは、どうやら、決闘の作法を知らないようだ。


別に戦闘不能にならなくても、顔や首などに切っ先を向けられたら、敗北が確定する。


貴族ならば常識のことであるはずだが……。





ちなみに闘技場のグラウンドには、【拡声の魔石】が配置されており、私たちの声や戦闘音は、観客たちにもしっかり聞こえている。


本来、観客たちに聞かせるのは、決闘した戦士同士が、互いの健闘をたたえあうりんとした口上こうじょうであるべきなのだが……


今回は、ゼリスの異常な言動が、観客たちに伝わってしまっていた。





「あいつ、おかしいよな」


「めちゃくちゃなこと言ってね?」


「どう見てもゼリスの負けよね。なんでまだ戦ってるの?」


「子爵令嬢の分際で、無礼な言動の数々……! ルチル様はもっと強く注意なさるべきですわ!」


「やべー女だな、あのゼリスってやつ」


「審判もさすがに困惑してるな」





ざわざわと観客たちが、不満や困惑の言葉を述べている。


いますぐにでも、ゼリスへの盛大なブーイングに変わりそうなほどだ。





――――――――――――

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