第4章144話:闘技場

そして。


決闘当日がやってくる。


私は闘技場に入場した。


観客は満席である。


拍手と声援があちこちから飛ぶ。


闘技場は、足元が土であるグラウンド。


そのグラウンドを、段々状だんだんじょうの観客席が囲んでいる。


円形闘技場である。


私は、グラウンドの真ん中まで足を進めた。


すでにゼリスが立っている。


私が、ゼリスから10メートルほど離れた位置で立ち止まった。


ゼリスは言った。


「逃げずに来たことは褒めてさしあげます!」


その物言いに、私は呆れた気持ちを覚える。


公爵令嬢を相手に、無礼な発言の数々。


私が糾弾するだけで、退学も有り得るというのに。


審判の女性がやってきた。


「静粛にお願いします!」


と、彼女は告げた。


「これよりゼリス・キネット、対、ルチル・ミアストーンの決闘を始めます!」


会場から拍手や口笛が飛ぶ。


こほん、と審判はせき払いをした。


「私は、決闘の審判を務めさせていただきます、ミリェリーと言います。よろしくお願いします」


と、ミリェリー氏が述べた直後。


ゼリスが口を開く。


「ルチル様、まさか審判を買収したりしていませんよね?」


そう疑義を投げかけてきた。


ミリェリー審判は顔をしかめて、言った。


「私は公平ですし、買収などされておりません。ゼリス嬢、失礼な物言いはつつしんでいただきたい!」


「どうだか。買収されていたら、不公平なジャッジをされるかもしれませんし、心配です」


と、ゼリスは嫌味そうに言った。


私はため息をついてから、告げる。


「安心しなさいな」


続けて、言った。


「審判の判定などなくとも、誰が見ても明らかなぐらい、完璧な勝利をお見せしてご覧に入れますから」


「なっ!」


ゼリスが顔を怒りに染めた。


「舐めないでください! 私だって、強いですよ!?」


「そうですの? では、頑張ってください」


「くっ……!」


ゼリスが、いらだちに歯ぎしりをする。


審判が言った。


「おしゃべりはそのあたりで。まずは、武器を提供します」


審判はアイテムバッグから、木剣を二つ取り出した。


その木剣を私とゼリスに、一つずつ手渡した。


「試合では、真剣ではなく、この木剣を使っていただきます」


と、審判が説明する。


私は木剣の握り心地を確かめた。


軽く振ってみる。


使用感は悪くない。


なんらかの魔法的な処理をほどこしているのだろう、強く握っても壊れないようにできているようだ。


「では、お二人とも、準備はよろしいですか?」


審判が聞いてくる。


私はうなずいた。


ゼリスもうなずく。


会場も静まり返っている。


そして、審判は告げた。


「それでは―――――はじめ!」


審判の号令とともに。


戦いの火蓋が切られた。

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