第4章142話:決闘成立

証拠もないのに、公爵令嬢に嫌疑をかける……


首が飛んでもおかしくない話だ。


(というか、ウソの嫌疑をかけるにしても、証拠を捏造するぐらいのことはやるものだと思うけれど)


陰湿な者ならば、捏造した証拠を突きつけて、大衆を煽動しようとするだろう。


どうやらゼリスに、そのような知恵はない。


良くも悪くも、アレックスと同じタイプの馬鹿だな……と、私は分析した。


「証拠がないのでしたら、これで話は終わりですわね」


「しょ、証拠はありませんが、あなたの不正を暴く方法があります!」


「……どんな方法ですの?」


「まさに私との決闘ですよ! 私は剣術試験12位です。本当に実力で1位を取ったのなら、12位の私に負けるはずがないですよね!?」


うーん。


どうだろう?


1位が12位に負けることだって、あると思う。


しかも、仮に私が負けたからって、それで不正が暴かれることにはならないだろう。


無理がある理屈だ。


「どうしたんですか? まさか、逃げるんですか?」


と、ゼリスは不敵に笑いながら問うてきた。


冗談ではなく本当に、私に勝利すれば、不正を暴いたことになると思っているらしい。


「ゼリス様……いくらなんでも、失礼ではないでしょうか?」


と、エドゥアルトが口を挟んだ。


「ルチル様の実力は、私が保証します。このお方の強さは、騎士団員と比較しても上位に位置するものです。何度も、この目で見て参りましたから」


「あ、あなたは専属騎士ですから、ルチル様を擁護するに決まってるじゃないですか! そんなの何の保証にもなりませんよ!」


「……まあ、そうかもしれませんが」


と、エドゥアルトが引き下がる。


さて……どうしたものか。


ここで勝負を逃げたら、ゼリスがかけてきた疑いに、一定の信憑性があると、周囲に思われてしまうかもしれない。


疑いは完全に晴らしておいたほうがいいかもね。


よし。


「……わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、決闘を受けてさしあげますわ」


私は、そう答えながら、地面に落ちたグローブを拾い上げた。


「こちらの要求も決めておきましょう。私が勝った場合、今回の言いがかりについて、謝罪と賠償を請求させていただきますわ」


「謝罪と賠償……ですか。そんなのでいいんですね?」


「はい」


退学しろ……と要求することも考えたが。


こいつは大学に残しておいたほうが、いろいろ暴れてくれそうだし。


私とアレックスが婚約破棄するための、キーパーソンになる気がビンビンする。


ゆえに、この要求で構わない。


「では、決まりですね!」


と、ゼリスは言った。


こうして、私とゼリスの決闘が決まる。


決闘の日時は、3日後、夕刻である。

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