第4章141話:決闘の要求

私は尋ねた。


「決闘ということは、わたくしに要求したいことがおありということですわね?」


ゼリスはうなずき、答える。


「はい。アレックス王子に、謝罪していただきたいと思います」


「……謝罪?」


「それから、あなたがおこなった不正についても、罪を告白し、懺悔ざんげしてください!」


……????


私はきょとんとする。


謝罪?


不正?


何を言っているのだ、この人は。


とりあえず、一つ一つ確認していこう。


「あの……わたくしが殿下に何を謝罪すればよろしいのですかしら?」


「決まっています。あなたが普段から、殿下より目立ち、殿下の面目を潰してしまっていることです。そのことで、殿下はとても窮屈な思いをなさっております!」


……ふむ。


なるほど。


まあ、意図的に面目を潰してやろうと思ったこともあるからね。


入学試験のときとかさ。


だが、正直にそれを言うつもりはない。


私は、素知らぬ顔で告げた。


「なるほど。殿下にそのような負担をかけていたとは、存じ上げませんでしたわ」


「なっ……白々しいことを!」


と、責められた。


私は言う。


「殿下に肩身の狭い思いをさせてしまったことは、反省いたしましょう。……で、次の質問ですが、私がおこなった不正とは何のことですの? 思い当たる記憶がないのですが」


「とぼけないでください! あなたは総合力考査そうごうりょくこうさの、剣術試験において、試験官に賄賂わいろを渡し、1位の座を買収したのでしょう!?」


なっ……


何を言い出すんだ?


そんなことはしていない。


悪質なデマである。


私は困惑のあまり、取り乱しそうになったが……


務めて冷静に、答えた。


「買収などしていませんわ」


「嘘です!」


「嘘ではありませんわよ。だいたい公衆の面前で、そのような言いがかりをつけるなど……証拠があってのことなんでしょうね?」


「しょ、証拠は……ありませんが」


と、ゼリスが気勢をそがれたように答える。


私は呆れたように苦笑した。


遠巻きに話を聞いていたギャラリーたちからも、失笑が漏れる。


「証拠もナシに疑ってたの?」


「何考えてるんだ」


「つーか、あいつ、誰?」


「子爵令嬢よ。ほら、王子の遊び相手の」


「相手はルチル様だぞ。証拠もなく糾弾きゅうだんするのはヤバくね?」


と、口々に声がささやかれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る