第4章139話:誓い

「そういえば剣術試験は……個室で行われていたな」


そう。


剣術試験は、一人ずつ、個室を使っておこなわれた。


多くのギャラリーのもとでおこなったものではない。


そこにいたのは、自分と、試験官と、審査員だけ。


つまり試験官と審査員を全員買収すれば、ロクな成績でなくとも1位は取れる。


ルチルは、そのようにして剣術試験1位の座を買ったのではないか?


(……そうだ。そうに違いない)


ルチルは、公爵家のコネや財力を存分に利用して、嘘と虚飾によって、今の地位を築いているんだ……!


間違いない!


「私に良い考えがあります!」


と、突然ゼリスが言った。


アレックスは思考を打ち切って、尋ねた。


「……ん? なんだ?」


「私が、ルチル様と一騎打ちの勝負をすればいいんです!」


「一騎打ち、だと?」


「はい。実は私、剣術試験は12位だったんですよね。私の実力ならば、ルチル様を一対一で討ち取れるはずです。それを公衆の面前で披露しましょう!」


「闘技場を使っての決闘をする、ということか?」


「その通りです!」


なるほど。


悪くない。


剣術試験12位のゼリスが、1位のルチルを打ち破れば、ルチルの実力不足がおおやけに知れ渡ることだろう。


(しかし公爵家の英才教育を受けているルチルに、ゼリスが勝てるか?)


アレックスは少し心配になった。


アレックスも、ルチルの1位はさすがに不正だとは思う。


しかし、ルチルがどうしようもないほどの雑魚とまでは思っていない。


なにしろ、将軍であり軍司令官であるルーガ公爵の、軍事教練を受けているのだ。


それなりには強いはずだろう。


不安がるアレックスに、ゼリスが訴えかける。


「大丈夫です、アレックス様。私を信じてください!」


「ゼリス……」


「私が、ルチル様の不正を暴き、アレックス様のお気持ちを晴らしてみせます」


「……」


そうだ。


自分がゼリスを信じなくてどうするんだ?


ゼリスはこんなふうに、自分のことを想ってくれているというのに!


(それに、ルチルの適性職は【錬金術師】だ。【剣術家】のゼリスが負けるわけがない)


勝算は十分にある。


ふふ。


ふははははは。


勝てる!


ルチルに一泡吹ひとあわふかせられるぞ!


ルチルが無様ぶざまいつくばって、笑いものにされるさまを想像し、アレックスは笑みがこぼれそうになった。


アレックスは顔を引き締め、ゼリスに言った。


「ああ。頼む、私の愛しいゼリス。どうかあの悪女の不正を、暴き立ててくれ!」


「はい。殿下に誓います!」


ゼリスは力強く、そう宣言した。


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