第4章138話:総合力の試験

月日は流れる。


6月。


大学では【総合力考査そうごうりょくこうさ】がおこなわれることになった。


ダイラス魔法大学では、期末試験の結果だけで、成績が決まるわけではない。


救済として、成績を補填ほてんしてくれる試験が存在する。


それが【総合力考査】であった。


この試験で好成績を修めれば、単位が7個獲得できる。


単位が危ない学生に対する、まさしく救済の試験である。


(まあ、中間考査ちゅうかんこうさみたいな名前をした、実質的な実テなんだけどね)


と、私は思った。





【総合力考査】は、筆記試験、魔法試験、剣術試験の三種類でおこなわれる。


私は、この試験において、筆記試験・剣術試験の両方で首位を取った。


このことは、やはり、すぐに学内に広まった。


「おい、聞いたか。またルチル様が1位を取ったんだってよ」


「しかも今回は、筆記だけじゃなく剣術も、だってな」


「さすがルチル様ですわね」


賞賛の噂が広がる。


自分の噂が広がるのは、むずがゆい思いもあるが……


貴族たるもの、堂々としていなければいけない。







<アレックス視点>


翌日。


アレックスは、中庭で、ゼリスと並んで座っていた。


いつもはゼリスの前ではご機嫌なアレックスだが……


この日は、機嫌が悪かった。


「またルチルの噂か」


ルチルが筆記試験で1位だったこと。


そして今回、剣術においても首位だったこと。


もはや学内の貴族コミュニティでは、ルチルの話題で持ちきりだ。


稀代の貴族令嬢として、みんなが褒めそやしている。


ゼリスは言った。


「またルチル様は、アレックス様を差し置いて……本当に目立ちたがり屋で、身勝手な人ですね!」


「ああ。あいつはそういう女だ」


アレックスはため息をつきつつ、微笑する。


ゼリスだけは、アレックスの味方でいてくれるからだ。


と。


そのとき、ゼリスは言った。


「でも、おかしくないですか?」


「ん、何がだ?」


「毎回毎回、ルチル様が1位だなんて。剣術まで1位なんて、絶対おかしいですよ。不正を働いているんじゃないですか?」


「……!」


ゼリスの指摘。


アレックスも、考えたことがあった。


ルチルは天才として謳われているが、本当に実力があるのか?


実は、才能など存在せず、すべて上手に虚飾しているだけではないかと。


たとえば試験で1位を取るだけなら、試験官を買収すればよい。


ルチル商会の経営だって、アイディアと人材を他人任せにすれば、上手くいく。


ルチルの実家――――ミアストーン公爵家の力を借りれば、ルチル自身が優秀でなくても、成功を演出することは可能だ。


(ゼリスの言う通り、ルチルは、周囲をあざむいているのではないか?)


はじめは小さかった疑念が、アレックスの中でどんどん膨れ上がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る