第4章137話:マキ視点2

<マキ視点>


マキは思った。


ゼリスへ警告しにいこう。


身を引くように、忠告しよう。


そう考え、歩き出す。


ゼリスを探す。


10分ほど大学内を歩き回ると……


魔法学部棟の中庭のベンチに、ゼリスが座っていた。


本を読んでいる。


マキは声をかけた。


「ゼリス・キネット、ですね?」


「……はい?」


ゼリスは、顔を上げた。


「私は、辺境伯の娘、マキ・フォレステールです」


「はぁ……」


ゼリスは、本にしおりを挟んでから閉じた。


それから立ち上がって、尋ねてくる。


「お初にお目にかかります、マキ様。何の御用でしょうか? ……いえ、それ以前に、どうして私のことをご存知なのですか?」


「私は、公爵令嬢ルチル・ミアストーン様の取り巻きです」


「……!」


「あなたは最近、アレックス殿下と懇意にされておられるようですね? もう、ここまで言えば、何が言いたいのかおわかりでしょう。――――殿下から身を引きなさい。殿下は、子爵令嬢ごときが、言い寄っていい身分ではありませんよ」


マキはハッキリと告げた。


ゼリスは顔をしかめて、答えた。


「イヤです」


「……なんですって?」


「イヤだ、とお答えしました。なぜ、あなたに私たちの仲をとやかく言われないといけないのですか?」


マキはカッとなって言い放つ。


「口の利き方に気をつけなさい! 私は辺境伯の娘ですよ!?」


「身分を傘に着るんですか? 私は、アレックス様によくしてもらっています。あなたに圧力をかけられたと、アレックス様に告げ口しますよ?」


「なっ……」


「いいんですか? 殿下を敵に回しても? 辺境伯は確かに立派だと思いますが、王族を敵に回してやっていけるんですか?」


ぎりっ、とマキは拳を握り締めた。


怒りの色に顔が染まる。


だが……


(身分を傘に着る……それは確かに良くない。ルチル様なら、ここでこのような物言いをしない)


ロクな理解を求めず、身分という名の威光を振りかざすのは、美しくない行為だ。


マキは深呼吸を一つする。


それから、落ち着き払って言った。


「とにかく、交際に関しては、立場をわきまえてください。釣り合わない恋路など、王子にもルチル様にも、多大な迷惑をかけるだけですから」


言うべきことは言ったとばかりに、マキは立ち去ろうとする。


その背中に、ゼリスは告げる。


「私は、アレックス様を本気でおしたいしています。誰がなんと言おうと、気持ちを変えることはありません」


マキは立ち止まる。


肩越しに振り返り、静かに告げた。


「……それがあなたの破滅につながらないと良いですね?」


皮肉まじりに言ってから、真剣な声で、マキは続けた。


「私はルチル様を敬愛しています。もしもルチル様を悲しませるようなことがあれば……家の威光を借りてでも、あなたを潰す。それだけは覚えておいてください」


そして、今度こそマキは立ち去った。

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