第4章136話:マキ視点

<マキ視点>


ルチルのティールームでお茶を飲む。


一杯、茶を飲み終わってから、マキはティールームをあとにした。


外に出てから、マキは思う。


(ルチル様は、ああ言っておられましたけど……)


アレックス王子とゼリスの交際。


ルチルはそれを、取るに足りないことのように思っている様子だった。


おそらく、ルチルは、アレックスとゼリスの交際が破綻すると予想しているのだろう。


なにしろ、王族と子爵令嬢だ。


身分が違いすぎる。


本気で互いを恋慕れんぼしていたとしても、上手くいくことはない。


周りの者は祝福しないだろうし、女王陛下も、お認めにはならないだろう。


子爵令嬢など、正室はもちろん側室としてすら容認されないに違いない。


「ですが……」


と、マキは焦りを感じる。


恋とは、そういう理屈を越えるパワーがあるものだ。


恋愛に狂って、正常な判断ができなくなることも多い。


また、アレックスがゼリスに惹かれすぎることで、ルチルへの情愛を失う可能性がある。


いずれ破綻する恋路だとしても、ゼリスへの未練が強すぎると、ルチルを大事にしなくなる可能性もある。


――――まあ、もっとも、これは全てマキ視点からの想像である。


実際は、アレックスもルチルも、互いに愛情などなく、むしろ自分たちの婚約が破局することを願っている。


だがマキは、そんな二人の内心には思いも至らないのであった。


「私がなんとかしなくては」


と、マキは意思を固める。


マキはルチルの取り巻きである。


取り巻きとして、ルチルの利益になるように行動する義務がある。


しかし、そういう義務感をよそにおいても、ルチルのために行動したいと思っていた。


なぜなら、マキから見ても、ルチルは立派な公爵令嬢だからだ。


この数ヶ月、ルチルのそばで、ルチルを見てきたが……


ルチルは、貴族としての地位や権力を傘に着ない。


誰に対しても公平に、親しみを持って接している。


さらに能力はずば抜けており、さまざまな方面で成功を収めている。


貴族令嬢として、ルチルほど完成された女性は見たことがなかった。


王国を背負っていく、国妃こくひにふさわしい女性は、ルチルをおいて他にいない。


マキはそう確信している。


だから、マキはルチルに敬意と忠義を捧げ、彼女のためにできることは、なんでもしたいと思っているのだった。

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