第4章134話:噂
<ルチル視点>
――――2ヶ月が経った。
夏が少しずつ近づいてきたころ。
大学内。
主に、貴族令息・令嬢の間で、とある噂がささやかれていた。
「アレックス王子のこと、お聞きになりました?」
「ああ。どこぞの子爵令嬢と、とても懇意にしておられるようだ」
「それって、恋仲ということですの?」
「おそらくそうだろう」
「殿下は、公爵令嬢であられるルチル様と、婚約していらっしゃったのではありませんか?」
「二人目を囲いたくなったのではないか?」
「側室に迎えるおつもりかもしれないな」
「いや、子爵令嬢だぞ。側室といっても、さすがに王族とは釣り合わない」
「ルチル様は、さぞお怒りでしょうね」
「そうですわね。一時の気の迷いだとしても、相手が子爵令嬢とは……」
「殿下は、ルチル様ではご不満なのかしら」
さまざまな噂や、憶測が飛び交っている。
どうやらアレックスが、2ヶ月ほど前から、子爵令嬢と仲良くしているらしい。
それも、結構、本気のお付き合いに見えるようだ。
実際、私も……
アレックスと、その子爵令嬢が腕を組んで歩いていた場面を、目撃している。
その令嬢の名は、ゼリス。
キネット子爵家の長女。
交際しているかは、確認が取れていないので不明だが、王子と仲むつまじい関係なのは事実のようだ。
―――――アレックスと私が婚約していることは、周知の話である。
だから、大学のみんなは、
私が子爵令嬢ゼリスをどう思っているのか。
殿下の"遊び"をどう思っているのか。
そもそも殿下は何を考えているのか。
本当に本気の恋なのか。
……等々と、さまざまな憶測を募らせている。
それにしても、子爵令嬢ねぇ。
(一応これって、三角関係になるのかな?)
と、私はティールームで一人、お茶を飲みながら、ぼんやりと思った。
アレックスをとりあって、私とゼリスが争う展開……?
ふふ。
バカバカしい。
むしろ、他に女ができたのなら、この機会に、私へ婚約破棄を叩きつけてほしいぐらいだ。
私は王子からフラれたいと思っているので、いつでもウェルカムである。
(それにしても、ゲームにこんな設定があったっけ?)
ゲームでは王子に別の女ができる、といった展開はなかったはずだ。
そういう隠しルートがあったのだろうか?
もしくは、私が異世界でいろいろ動いたから、未来が変わったとか?
あるいは、ゼリスが転生者だったり?
(いや、転生者はないな。転生者だったら、あの王子がゴミだとわかってるはずだし)
ゼリスが転生者であり、前世の知識を利用して、王族に近寄ろうとしたケースは……きっと無い。
確認は必要だと思うが、おそらく転生者ではないだろう。
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