第4章133話:アレックス視点2

だが。


このときのアレックスは、心が弱っていた。


だから、まあ、話し相手ぐらいにはさせてやろうと思った。


「……ならば隣に座れ」


「よろしいのですか?」


「ああ。お前に、とあるクズの話をしてやる。話を聞いた上で、感想を聞かせろ」


とあるクズ―――ルチルの話を聞かせてやろう。


ルチルが、どれだけ身勝手で、承認欲求が強く、王族の自分に敬意を払わない、最低の礼儀知らずであるかということを――――


そう思ったアレックスは、ゼリスを隣に座らせて、語り始めた。


ルチルへの不満を話す。


自分の抱えていた気持ちも話す。


どうやらゼリスは聞き上手なのか、アレックスはつい、興が乗ってしまった。


しばし話し込んでしまう。


最後に、以下のように締めくくった。


「――――といった具合で、私の婚約者は、どうしようもないクズなのだ。ヤツのせいで、私の名誉はダダ下がりだ」


もちろん、これらはほとんどアレックスの被害妄想なのだが……


アレックス視点からみると、ルチルは、自分をおとしいれる悪女なのだった。


「なるほど……」


と、ゼリスはつぶやいた。


どうせゼリスも、ルチルの味方なのだろうな……と、アレックスはなかば諦めのような気持でいたが。


ゼリスはハッキリと断言した。


「殿下の婚約者……ルチル様は、ひどいお方ですね!」


「……何?」


「だって、そうじゃないですか。殿下を差し置いて、自分ばかり目立とうとするなんて。婚約者として、配慮が足りていないと思います!」


「……!」


アレックスは驚愕した。


今まで、王族に取り入りたくて、とりつくろった言葉を投げかけてくる者はいくらでもいた。


しかし。


そんな連中でも、ルチルを堂々と批判するような言葉を、口にした者はいなかった。


なにしろ、ルチルは公爵令嬢だ。


軍の名家、ミアストーンの肩書きを持っている。


そんな相手に陰口をたたいたことがバレたら、貴族社会では居場所を失う覚悟もしなければならない。


ルチルと対峙できるのは、王族か……もしくは公爵令嬢ルビーロッドのように、ルチルと同格の地位を持つ者だけだ。


だから子爵令嬢でありながら、ルチルを「ひどいお方だ」とハッキリ明言したゼリスに、アレックスは新鮮さを感じた。


ゼリスは、本当の意味で、アレックスの味方をしてくれているのだと、そう思った。


「お前……ゼリスと言ったな?」


「はい」


「名を覚えておく。明日も、この時間にここに来い。また、話をしよう」


「……! はい! 必ず、ここに参ります!」


「約束だぞ」


アレックスは微笑む。


久しぶりにアレックスは、心から笑えたように思った。

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