第4章:ゼリス

第4章132話:アレックス視点

第4章:ゼリス




<他者視点>


数日後。


ルチルがデュアラリー試験を突破したことが、公表された。


すぐに、この情報は大学中に広まった。


「すげーな」


「公爵令嬢だっけ?」


「新入生総代の人だよな」


「さすがルチル様ですわ」


「やはりあの方は、才能が違いますわね」


「ああ、ルチル様と同じ学年で学べることを、光栄に思います!!」


校内で、口々に噂がなされる。


そのほとんどが、ルチルを褒めたたえるものであった。






だが、それをこころよく思わない者がいた。


アレックスである。


彼は、ルチルの成功を、心底いまいましく思っていた。


王子である自分を差し置いて、婚約者であるルチルばかりが、みなに語られる。


屈辱的な状況だった。


(くそ……)


中庭のベンチに座った彼は、心の中で悪態をついた。


人払いをしたので、現在、お付きの者や、取り巻きは周囲にいない。


完全に一人である。


(どいつもこいつもルチルのことばかり……本来、そのような称賛を向けられるべきは、私であるはずだろうに!)


拳を握りしめる。


(どうせデュアラリー試験だって、公爵家の権力で、無理やり合格させただけだろう)


そうだ。


ルチルに才能なんてあるはずがない。


不正だ。


きっとそうに違いない。


……アレックスは、ルチルへの嫉妬のあまり、そんな思いを募らせていた。


大きなため息を吐く。


と。


そのときだった。


「殿下……?」


「ん……」


顔を上げる。


一人の女が立っていた。


貴族令嬢らしきいでたち。


青色の巻き髪。


黄色い瞳。


面識はない。


が、おそらく子爵か伯爵あたりの令嬢だろう……とアタリをつけた。


アレックスは尋ねた。


「なんだ?」


「いえ……殿下が、ため息をおつきになっておられましたので。何か悩み事がおありでしょうか」


「悩み事があったらなんだというんだ。だいたい、どこの貴族令嬢だ、お前は?」


「申し遅れました。私は、ゼリス・キネットと申します。キネット子爵家の長女でございます」


「子爵家ごときの女が、私に声をかけるなど、無礼ではないか?」


「申し訳ありません。ですが……殿下のことが心配で。悩み事がおありならば、私に、お話になってくださいませんか? 人に話すだけでも、お心が晴れるかもしれませんし」


「何……?」


アレックスは警戒した。


このゼリスという女は、どうせ王族である自分と友誼ゆうぎを持ちたいだけだろう。


あさましい。


怒鳴りつけて、追い返してやろうかと思った。

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