第3章129話:魔大蛇


しかし、そのときだった


「グラアァァァァッ!!!」


もう一体、魔蛇が現れる。


いや……魔蛇ではない。


大きさも色も違う。


これは……


「魔大蛇だ!!」


試験官がそう叫んだ。


「なんでこんな魔物がここに……!? おい、逃げるぞ!」


試験官は私に呼びかける。


しかし、私はその場にたたずんで、思った。


(魔大蛇の素材、欲しい!)


あまり出回っていないんだよね。


それでいて、結構、錬金術で必要になることが多い。


ぜひとも倒して素材を回収したい。


「倒しますわ!」


私がそう告げると、試験官は目を見開いた。


しかし、すぐに怒号を飛ばす。


「なっ……!? 倒せるわけがないだろ! 死ぬ気か!?」


たしかに今の状態で討伐するのは不可能だ。


しかし、私にはさらに上の段階がある。


私はアイテムボックスからバフポーションを取り出した。


それを飲み干した。


「グラァアッ!!!」


魔大蛇が噛み付こうとしてくる。


素早い動きだ。


通常なら確実に噛み付かれていた。


しかし、バフポーションを飲んだ私は、それを軽々と回避する。


そして――――


「せいッ!!」


振り下ろす剣撃。


魔大蛇の首を切り裂く。


魔大蛇が悲鳴をあげた。


かなり深く斬りつけたが、もともとが巨大な魔物だ。


致命打とはいかない。


なので、よろめいた魔大蛇にさらに追撃を加えることにする。


まずは跳躍。


バフポーションを身につけた私のジャンプ力は7メートルにも及ぶ。


その高さから魔大蛇を見下ろす。


刃を下に向け、重力にしたがい降下。


剣を魔大蛇の頭部に突き立てた。


「グラアアアアァァッ!!!?」


魔大蛇が断末魔の叫びを上げた。


私は地面に着地する。


魔大蛇は、二、三度よろめいた後、力なく地面に伏せていった。


動かなくなる。


どうやら絶命したようだ。


「……」


試験官は、信じられないものを見たかのように絶句していた。


私は剣についた血を振り払ってから、鞘に納める。


そして魔大蛇の死体をアイテムボックスへと収納した。


試験官はぽつりと言った。


「君は……いったい何者なんだ? 魔大蛇の単騎討伐なんて、Cランク冒険者でも厳しいのに」


「わたくしは軍人令嬢ですの。ご存知なかったかしら」


「戦闘前に何か飲んでいたな。あれはなんだ?」


「あれはわたくしの錬金術で製作したものですが……あまり詮索されたくはございませんわ。申し訳ありません」


「いや……君の切り札なんだな。だとしたら聞いたこちらが悪い。冒険者は、詮索しないのが鉄則だからな」


「感謝いたしますわ」


「ただ魔大蛇のことは報告させてもらう。その際、できればギルドの上層部に死体を見せてもらいたい。その証拠をもとに、二体目がいないか調査隊をしようと思う」


「承知いたしました。さて……用は済みましたし、王都へ戻りましょうか」


「ああ、そうだな」


試験官と私は、森をあとにする。

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