第3章107話:アレックスの怒り



翌日。


朝。


晴れ。


私はマキとともに大学を歩いていた。


マキがふいに尋ねてくる。


「ルチル様は、何か気に入られた講義はおありですか?」


私は答える。


「ほとんど決まってないですわ。まあ、錬金術系の講義は取るつもりですが……他は、体験してから決めようと思います」


――――科目選択の期限は2週間。


この2週間にも講義が開かれている。


実際に講義を体験してみて、受講するかどうか決めていいわけだ。


だから、いろいろ気になる講義を体験しにいってみようと思う。


「ルチル様は錬金術師が適性でいらっしゃいますものね。それでは私も、錬金術の講義を取ることにします」


「無理して合わせる必要はありませんわよ。自分の好きな講義を取りなさい」


マキの適性職は【魔導師】である。


錬金術の適性はない。


適性がなくとも、練習すれば、ある程度は使える。


しかし、興味がないものに取り組むのは有意義ではないだろう。


――――と、そのときだった。


「このクズがっ!」


歩いていると怒号が聞こえてきた。


聞き覚えのある声だ。


そちらを見やる。


やっぱり……アレックスだ。


「無礼者が。この場で処刑してやろうか!?」


平民とおぼしき相手に怒鳴り散らしている。


平民は青ざめて腰を抜かしていた。


アレックス殿下の取り巻きは、困惑した様子である。


マキがぽつりと疑問を漏らす。


「何があったんでしょうか?」


「さあ……でも、処刑とは穏やかではありませんわね」


私は介入することにした。


殿下たちに近づく。


「殿下。いったいどうなさったんですの?」


私が呼びかけると、アレックスはこちらを振り返った。


私の顔を見るなり、舌打ちをしてくる。


嫌われてるなあ……と私は内心、苦笑する。


アレックスは私の問いに答えた。


「こいつが私と目があったくせに、挨拶も平伏もしなかった」


ん……?


「それだけですの?」


「それだけとはなんだ!? 平民の分際で、王子である私を無視したんだぞ。無礼にも程があるだろう!」


脱力した。


いや、まあそんなことだろうとは思ったけどね。


だってアレックスだもん。


くだらないことで怒っていると思ったよ。

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