第3章97話:ラクティアと挨拶
全員の視線がこちらに向く。
すると貴族の男たちが驚愕に目を開いた。
「なっ……ル、ルチル様!!?」
「え!? ルチルって……公爵令嬢の、ルチル・ミアストーン!?」
貴族たちがあわあわと口を開いている。
私は言った。
「話が聞こえていましたが、あなたたち、軽くぶつかっただけなのでしょう? なのに、少し騒ぎすぎでは? それぐらい受け流してあげるのが、ノーブルの振る舞いというものですわよ」
「は、はいいっ! すみませんでしたっ! おい、いくぞ!」
「え、ええ」
貴族の男女はビビったように去っていった。
レオンとラクティア、それから私たちが残される。
「……あんたも、貴族なのか?」
レオンが私に聞いてきた。
私は答えた。
「ええ、そうですわ。それが何か?」
「いや……なんでもねえ」
そっけなく答えて、レオンが立ち去ろうとする。
するとラクティアが呼び止めた。
「あ、あの! かばってくれて、ありがとうございました!」
「……別にかばったわけじゃねえよ」
レオンはそう言って、今度こそ立ち去っていった。
うん、ぶっきらぼうだ!
ゲームと同じでツンツンしてるなぁ。
そんなことを思っていると、マキが怒り出した。
「なんですか、あの男は。せっかくルチル様が助け舟を出してくれたというのに、お礼も言わずに立ち去るとは。礼儀知らずにも程がありますね」
「まあまあ。わたくし、ああいう方は嫌いではありませんわよ」
アレックスみたいなカスよりはマシだしね。
「ルチル様はお優しすぎます! あまり格下の者を甘やかすと、つけあがって舐められますよ!」
マキが忠言してくる。
まあマキの言うことはわかるし、正しいと思う。
レオンの態度が良いか悪いかで言えば、悪いだろう。
だいたい貴族を相手に喧嘩腰になっても得することはないしね。
ただ……いちいち私が腹立てることでもないってだけで。
「あ、あの……」
そのときラクティアがおそるおそる口を開く。
「助けていただいて、ありがとうございました」
「いいえ。あなた、ラクティアですわね?」
「え? はい、そうですけど……どうして私の名前を?」
「実はわたくし、あなたと同じ教会で洗礼式を行っておりましたの。あなた、聖魔導師の適性職を認定してもらっていましたわよね? そのときのことが印象に残って、名前を覚えていたのですわ」
さもそのとき初めて知ったという口振りで、私は言う。
実際はもちろん、ゲームの女主人公だから知っているだけだが。
「そうだったんですか……えっと、ルチルさん、でしたっけ」
ラクティアがそう聞いてきたとき、マキが注意した。
「平民。貴族を呼ぶときは様づけをしなさい」
ラクティアが慌てて謝る。
「す、すみませんでした。ルチル様」
私は苦笑しながら言った。
「改めて自己紹介を。公爵家令嬢、ルチル・ミアストーンですわ。こちらはマキとエドゥアルト。以後、お見知りおきを」
「私はラクティア・アイリスです。その、よろしくお願いします」
ラクティアは深く頭を下げて自己紹介をした。
ラクティアとルチルは、この段階で出会うわけではない。
ここで知己を得ることが、ゲームの展開に影響するのかは未知数だ。
「それでは、わたくしたちは人を探していますので、これで失礼しますわ。またお会いしましょう」
私は言い残して、その場をあとにする。
さて……フランカを探さないと。
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