第2章73話:宿の風呂


この宿のお風呂は素晴らしかった。


まず正面の壁は全面が窓である。


小高い丘のうえにある宿なので、窓からは海が眺望できる。


最高のオーシャンビューなのだ。


「ん~、良い眺め」


沈んでいく夕陽。


夕焼けに染まった海原が、水平線の彼方まで広がっている。


それを眺めながら入るお風呂は、とても優雅なひとときだった。





入浴後は、夕食だ。


小綺麗な食事スペース。


6人がけの長テーブルがあり、テーブルクロスが掛けられている。


窓からはやはり海が眺められる。


水平線の夕陽も残りわずかとなり、空の上からは夜のとばりが降り始めている。


食事のメニューは以下だ。


魚と貝のパスタ。


卵スープ。


サラダ。


林檎酒。


そして本来、饗されるはずだった牛肉ステーキを無くし……


代わりに注文したロブスターの塩焼きが一人一つずつ並べられた。


「ふむ。ロブスター……ですか」


エドゥアルトは興味深げに大エビの塩焼きを眺める。


驚くべきことに、エドゥアルトたちはロブスターを知らなかった。


食べたことがないばかりでなく、存在すら聞いたこともなかったそうだ。


「ロブスターを初めて見ましたが、大きなザリガニみたいですね」


フランカがそう喩える。


うん……まあ、間違ってないけどさ。


ロブスターはザリガニの一種だし。


「せっかく海に来たのですから、食べておきたいと思いましたの」


ロブスターとは伊勢海老のようなもの。


美味なのは間違いない。


塩焼きにされたロブスターからは、香ばしい海の香りがただよっている。


「それでは、いただきましょう」


私がそう宣言する。


各々、食前の祈りを行い、食べ始める。

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