第2章72話:海の街メルトルーン



半日ほど歩く。


すると海辺に立つ街並みが見えてきた。


海の街メルトルーンだ。


とても綺麗な街であることは遠目にもわかる。


私も初めてくるのだが、どうやらここは観光地としても有名だそうだ。


街に近づき、正門で入場料を払って街に入る。


「わぁ……ここが海の街ですか」


フランカが感動したように言って、視線をめぐらせていた。


「素敵な街ですね」


エドゥアルトも感心している。


メルトルーンは賑わいのある街だった。


商人や漁師が露店を出し、魚介類を中心にさまざまなものを販売している。


繁栄しているのだということが雰囲気でわかる。


――――そもそも、この世界では海産物は貴重品だ。


移動手段が発達していない異世界では、海の産物を内陸に届けるのにコストがかかる。


だから内陸の人間にとって、海の幸はすべてにおいて珍味であり高級品なのだ。


アジやサバひとつで1万ディリンなんてこともザラにある。


メルトルーンは、そういう海産物交易の発信地として、莫大な利益をあげている。


漁師が獲った魚や貝は、行商人が大量に買い付ける。


そして行商人は内陸に行ってそれらの魚介類を高く売り付けるのである。


(あと……海や河川を使った交易は、一番儲かるからね)


―――馬車で移動するよりも、船を使ったほうが速い。


―――馬車で積荷を運ぶよりも、船を使ったほうが積載量が多い。


陸上交易よりも水上交易のほうが儲かる理由はそこにある。


メルトルーンもやはり水上交易の利点を活かして繁栄している街だろう。


……いずれ私も、船を利用した交易に乗り出してみようかな。


旅から帰ったら、アリアに相談してみよう。






入ったときは昼間だったが、すぐに夕刻になった。


日が傾き、オレンジ色に染まる海の街もまた、美しかった。


私たちは宿屋を見つけてチェックインする。


その宿屋は『シー・ウォール亭』という名前。


小高い丘のうえに立つ高級宿であり、1人1泊5万ディリンだ。


食事付き、風呂付きである。


疲れていたので、チェックインを済ませると、先にお風呂をいただくことにした。


なお、お風呂は大浴場もあるが……


各部屋に1つずつ備えられている個室タイプの風呂もある。


私は個室のほうに入った。


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