第2章54話:怪我人


張り裂けんばかりの声で懇願してくる。


「お願いします。エリーシャを……俺の娘を助けてやってください! 治療費は一生かけてでも払います! だから!」


男性は土下座して頼み込んできた。


私が答える前に、エドゥアルトが告げる。


「申し訳ないが、貴族だからといって何でもできるわけではありません。優秀な治癒師でもいないことには――――」


私はエドゥアルトの言葉を、手で制した。


それから男性に呼びかける。


「治せるかはわかりませんが……やってみますわ」


エドゥアルトは驚いた様子で言ってくる。


「ル、ルチル様!? 可能なのですか?」


「それはわかりません。しかしわたくしは錬金術師ですから、できることはあると思いますの」


軍人令嬢として英才教育を受けてきたから、どんな処置をすればいいのかはだいたいわかる。


このレベルの重傷だと、通常のポーションでは治せない。


ハイポーション……いや、そのうえの【最上級ポーション】を用いる必要があるだろう。


私は鑑定魔法を使う。


最上級ポーションの素材を調べるためだ。


(鑑定!)


すると、必要素材が表示される。



■■■

最上級ポーションの必要素材

 ・ハイポーションx3

 ・精霊の血



■■■


私はその鑑定結果に驚いた。


(……ハイポーションは持ってるけど、精霊の血って)


さすがに最上級ポーションの必要素材は簡単じゃない。


精霊の血なんてアイテムは持っていない。


……いや、ちょっと待って。


そういえば私、精霊に知り合いいるじゃん。


『シエラ様!』


『はいはい』


念話で呼びかけると、その場に現れるシエラ様。


しかし彼女の姿は、私にしか見えていない。


『あなたの血液、少しでいいのでいただけませんか?』


『最上級ポーションが欲しいのね? まあ、別にいいけど』


そう言ってシエラ様が自身の手のひらを切り裂いた。


ぽたぽたと流れる血を差し出してくる。


この血液も、どうやら私にしか視認できないようだ。


その血を、アイテムボックスから取り出した小皿の上に乗せる。


よし―――これで準備はできた。


そのときフランカが言ってきた。


「この傷を治すには、おそらく最上級ポーションが必要です。でも、そんな代物は簡単には手に入らな――――」


「大丈夫です。たぶん作れますわ」


私はそう告げた。

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