第2章53話:ケト村
森の中を歩いていく。
小一時間ほど進んでいくと、私たちは小さな村へと辿り着いた。
ここは【ケト村】。
人口60人程度の村だ。
野菜のジュースが名物らしいので楽しみにしていたが……
なにやら村が慌ただしい。
エドゥアルトも同じことを感じたのか、つぶやいた。
「何かあったのでしょうか?」
するとフランカが斜め前方を指差した。
「あそこに人が集まってますね」
村人たちが広場のようなところに集まって、何かを取り囲んで見ていた。
私は言った。
「行ってみましょう」
人だかりに近づいていく。
近づくにすれ、嫌なにおいがただよってくる。
鉄分を含んだ臭い。
血の臭いだ。
そのとき人だかりの中心から声が聞こえてくる。
「頼む……エリーシャ! 死なないでくれ! くそっ……! どうしてこんなことに!」」
どうやら、ただならぬ事態のようだ。
私は早足で声のもとへ向かう。
「ちょっと退いてもらえますかしら?」
呼びかけ、人だかりを押しのける。
村人たちは突然現れた私たちに怪訝そうな目を向けた。
しかし、こちらの身なりや格好だけで身分差を理解したのか、すぐに道を開けてくれる。
すると、血だまりに倒れる一人の女性の姿が目に入った。
「大丈夫ですか!?」
私は血みどろに伏した女性に駆け寄った。
「何があったんですの!?」
「あ、あなたがたは?」
女性の隣にいた男性が尋ねてくる。
その頬は涙に濡れ、目は赤くなっている。
私は答えた。
「わたくしはルチルと申します。いろいろあって旅をしている、ミアストーン公爵家の娘ですわ」
公爵家の娘と聞いて、村人たちがざわついた。
ただ、今は身分について話している場合ではない。
フランカが周囲に尋ねた。
「いったい何があったんですか?」
すると村人たちが答えた。
「最近、村の近くにホッズボアが現れてな」
「森に入っていたエリーシャが運悪く襲われて……こんなふうに」
なるほど。
ホッズボアとは、さっき倒したあのイノシシか。
確かに戦闘能力を持たない村人が、アレに襲われたら無事では済むまい。
と、そのとき、涙にくれていた男性が私に言ってきた。
「き、貴族様!」
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