第1章16話:ルチルの適性職
「これは……!」
神父が目を見開く。
その場にいた全員が
やがて光が収まる。
神父が水晶の文字を確認した。
「素晴らしい。
歓声が上がった。
聖魔導師は、ゆくゆくは聖女となりうる職業の一つだ。
その選ばれた適性職を得られたのは、一人の女性。
私がよく見知った顔だった。
(ラクティア……!?)
そこに立っていたのはグラティール物語の主人公……ラクティアだった。
グラティール物語には主人公が二人いる。
男主人公と女主人公だ。
ゲーム開始直後の画面で、どちらかを選ぶことができる。
しかもどちらを選ぶかで、ストーリーが結構変わってくる仕様だ。
ちなみにラクティアは、女主人公である。
そうか。
そういえば、彼女は【聖魔導師】の適性だったっけ。
(ど、どうしよう。声をかけるべきかしら?)
ゲームでのルチルは、もっと後で登場するキャラクターだ。
ラクティアとは、この段階ではまだ知り合いではない。
だったら今のうちに知り合うのはまずいか?
でも主人公を味方につけたらかなり心強い。
だって主人公だもの!
ゆくゆくは聖女になるもの! ストーリー的に!
うーん。
声をかけるべきか、悩ましい。
「次……ルチル・ミアストーン」
そうしているうちに、神父に私の名前が呼ばれた。
「……はい」
結局、ラクティアに声をかけるという
私は前に出る。
そのときひそひそと背後から噂をする声がした。
「おい。ルチル・ミアストーンって……」
「ええ。ルチル商会の会長である、あのルチル様よ!」
「なんとお美しい……さすが公爵家のお姫様だな」
「きっと優れた適性職なんだろうな」
商会に関する賞賛。
容姿に関する賞賛。
そして適性職に対する期待。
そういった声があちこちから挙がる。
(うわぁ……めちゃくちゃ注目されてるじゃん……)
勘弁してほしい。
まあ、私は大魔導師が確定してるから、ハズレ職を引くことはないけどさ。
とりあえず、さっさと水晶の前へ。
「では、水晶に手を」
神父様に指示され、私はうなずく。
そして水晶に手をかざした。
水晶が微笑に輝く。
やがて文字が浮かんだ。
神父がそれを読む。
「ふむ……錬金術師ですか」
……え?
「れ、錬金術師?」
自分の耳を疑い、私は神父に問いかける。
「ええ。ルチル様の適性職は、錬金術師です」
神父様が再度、そう告げる。
どうして?
ゲームでのルチルは大魔導師だったはずだ。
なぜ適性職が変わってしまった?
(まさか……転生者であることが影響してる?)
そうとしか思えない。
とにかく、私の適性職は錬金術師であることが確定した。
すると、周囲からのざわめきが聞こえてくる。
「さすがルチル様だ!」
「錬金術師か。すげえ」
「やはりものづくりの才能がおありなんでしょうね」
それらは私を褒め称える言葉だ。
しかし、私は知っている。
平民ならともかく、貴族社会において錬金術師は不遇職であると。
錬金術師の仕事は薬師に近く、貴族のすることではない。
下級貴族であるなら
公爵令嬢のくせに錬金術師とは……などと嘲笑される未来が見えた。
(いやあ……あはは。どうしたものか)
困惑まじりの苦笑をする。
まあ、とにかく、なってしまったものはしょうがない。
自分の適性を受け入れることにしよう。
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