第1章15話:洗礼式

また年が明ける。


113歳。


春。


公爵家の食堂。


食卓で、私は父母と夕食をとっていた。


「ルチルよ」


父上が静かに口を開いた。


「一週間後に教会の洗礼式せんれいしきがあることは忘れておらんな?」


洗礼式。


113歳になった者たちを対象に、教会で行われる式。


魔法の適性職てきせいしょくを調べる儀式だ。


適性といえば、すでに【属性の適性】は判明している。


私の場合なら水魔法である。


そして今回の洗礼式は【職業の適性】を調べる式だ。


属性と職業の適性……この二つの両輪によって、その者の魔法のセンスが決まるのだ。


「もちろんでございますわ」


「うむ。優れた適性職に選ばれることを期待している」


優れた職業もあれば、いわゆる、不遇職もある。


ゲームでのルチルはたしか【大魔導師】だったはずだ。


魔導師の上級職の一つであり、最強の魔法使いをも目指せる職業である。


「できれば軍人として有利な職業適性が望ましい……と思っていたが、お前はもう王子の婚約者だからな」


「戦闘の適性職でなくても良いと?」


「ああ」


意外な発言だった。


これまでルチルは、父上からさまざまな軍事教育を受けてきた。


最たるものは、人を殺す訓練だ。


ルチルは既に20人以上も盗賊を斬り殺している。


戦争に参加した経験もある。


前線ではなかったし、そのとき殺した敵兵は5人ぐらいだが……


ともかく父上は、明らかにルチルを軍人として育てるつもりだった。


しかしここに至って、少し方針を変えてきた感がある。


発言からするに、私が王子の婚約者になったからのようだ。


(まあ、あの王子と結婚するつもりはないけどね)


なので、父上のもくろみは諦めてもらうしかないだろう。







さて。


一週間後。


領都の教会にて、たくさんの人が集まっていた。


みんな113歳になった者たちだ。


適性職の検査を受けにきたのだろう。


ややあって、神父が前に出た。


洗礼式が開始される。


「では順番に名前を呼びますので、呼ばれたら前に出て、祭壇さいだんに置かれた水晶に手をかざしてください。すると水晶に文字が表示され、それがあなたがたの適性職となります」


開始とともに一人目の名前が呼ばれる。


二人目、三人目……と続いていく。


優れた適性だとわかった者からは歓喜の声があふれた。


逆に、不遇職に選ばれてしまった者は落胆らくたんしている。


その場で崩れて泣き出す者もいた。


(まあ、適性職次第で、人生変わっちゃうからね)


多かれ少なかれ、適性職はその人の未来を決定づけてしまう側面がある。


たとえば鍛冶師を目指すなら、鍛冶職や道具職が適性じゃないと厳しい。


私はどうせ【大魔導師】になることは決まっているから、のんびり構えているけど。


と、そのとき。


水晶がひときわ大きな光を放った。







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